味覚協奏曲

 味覚は感覚のひとつなので、天才と言われる味覚の持ち主がいる。もちろん味覚には好みがあるが、味覚の尺度としては500mlの水に塩粒を入れ、何粒の塩で塩気を認識できるかである。3粒以下であれば天才であろう。   
 この味覚は甘味、塩味、酸味、苦味の4つに分けられるが、第5のうま味を発見したのは日本人である。東京帝国大学教授の池田菊苗が昆布からグルタミン酸を、小玉新太郎が鰹節からイノシン酸を、国中明がシイタケからグアニル酸を発見し、このことから英語のうま味はumamiと表記されている。
 世界の美食都市としてミシュランガイドやCNNは、東京がパリを大きく引き離して「世界第1位の美食都市」にしている。これは日本人の味覚が古来から優れているからと考えている。
 しかし食通を気取る者と食事をすると、どんな料理でもウンチクをいうので食事はまずくなる。ウンチクなど聞けば聞くほどうっとうしいのに、食通のウンチクはゲリのように止まらない。蕎麦の食べ方、寿司の食べ順、鍋のダシの順番、もういい加減にしてほしい。
 最近テレビではレストラン巡りがブームになっているが、これは制作費が安いからである。レストランはテレビに出れば宣伝になるので食事代はタダ、出演者は誰でもいいので極めて安い。しかも1回に数件の店を訪ね、数回分の番組を作るので、一口食べただけで、あるいは吐き出して次の店に行くのである。
 5年ほど前になるが、食品偽装が社会問題になった。ミートホープ社は20年以上にわたって外国産の牛肉を国産と偽って販売していた。北海道のお土産の代表格である白い恋人たちは賞味期限を改ざんしていた。秋田県大館市の食肉加工製造会社「比内鶏」は比内地鶏ではなく廃鶏と呼ばれる雌の鶏を20年以上前から使用していた。伊勢神宮参拝の土産「赤福」は30年以上も前から製造年月日を改ざんし、船場吉兆は10年以上前から九州産の佐賀牛を但馬牛と偽っていた。
 これらの事件はすべて内部告発によるが、最も重要なことは、消費者が偽装に気づかなかったことである。つまり日本人の味覚の低下、味覚を感じる脳機能の低下、ブランドに踊らされる国民性を意味しているのである。
 この事件をきっかけに政府は消費者庁をつくったが、マスコミが騒げば官僚はこれをチャンスに省益を拡大するだけである。官僚は正義を振りかざし、悪なる役害を得ようとする。いずれにしても食品偽装は業者の金儲け主義が根底にあるので、食品で金儲けをする商売根性が間違っている。
 食通や食事などはどうでもいい。味覚よりも雰囲気である。1998年の八代亜紀の歌、阿久悠作曲、浜圭介作詞の舟歌を口ずさみながら、塩を舐めて飲む日本酒が最高である。もちろん、酒を持つ手が止まってしまうが、時にはアルゲリッチやキーシンのひくショパンの舟歌でもよい。食事は狂奏曲よりも協奏曲である。

「舟歌」https://youtu.be/C1GATyFEcqQ
お酒はぬるめの 燗がいい 肴はあぶった イカでいい
女は無口な ひとがいい 灯りはぼんやり 灯りゃいい
しみじみ飲めば しみじみと 想い出だけが 行き過ぎる
涙がポロリと こぼれたら歌いだすのさ 舟唄を
沖の鴎に深酒させてョ いとしのあの娘とョ 朝寝する
ダンチョネ
店には飾りがないがいい 窓から港が 見えりゃいい
はやりの歌など なくていい 時々霧笛が 鳴ればいい
ほろほろ飲めば ほろほろと 心がすすり 泣いている
あの頃あの娘を 思ったら 歌いだすのさ 舟唄を
ぽつぽつ飲めば ぽつぽつと 未練が胸に 舞い戻る
夜ふけてさびしく なったなら歌いだすのさ 舟唄を
ルルル…
アルゲリッチ、キーシンがひくショパンの舟歌
https://youtu.be/f99mfQOldx0 
https://youtu.be/4b_msb9vKP0