ハチャトゥリヤン「剣の舞」

故郷の調べを世界に届けたい

日本人にとっては、音楽鑑賞や運動会でお馴染みの「剣の舞」。もともとバレエの中で剣を持った男性が勇壮に踊る場面の曲。作曲したハチャトゥリヤンが故郷への愛情を込めた作品でもある。

 

一夜漬けで誕生した傑作

日本でもお馴染みの「剣の舞」。もともとは、バレエの中の1曲でした。バレエの名は「ガイーヌ」。旧ソ連時代のアルメニアを舞台にした作品で、様々な民族舞踊が登場するバレエです。「剣の舞」はその中で、クルド族の男性が剣を持って勇壮に踊る場面の曲です。今や世界中で知られる「剣の舞」ですが、誕生にはちょっとしたエピソードがあります。全体リハーサルの前日の夜、ハチャトゥリヤンはピアノの前で頭を抱えていました。バレエの終盤に登場するクルド族の踊りの音楽がまだ出来ていなかったからです。夜中になってようやく手がかりのリズムが思い浮かび、やがてあの有名なフレーズがひらめいたのです。その後は一挙に楽譜を書き上げ、翌朝には完成していたといいます。まさに一夜漬けで誕生した傑作だったのです。

 

母なる故郷の調べ

ハチャトゥリヤンはグルジア生まれのアルメニア人。幼い頃は母が歌うアルメニア民謡や街で流れていた様々な民俗的な音楽や舞踊に親しんで育ちました。19歳からモスクワで作曲を学んだ遅咲きで、彼が作曲する際の基盤になったのはやはり地元の民謡でした。彼は、モスクワで学んだ作曲法を駆使して、故郷の調べを取り入れながら、独自のクラシック音楽の世界を作り上げた作曲家なのです。「剣の舞」は独特のリズムと一度聞いたら忘れられないフレーズのために、世界中で演奏される名曲となりました。ハチャトゥリヤンの故郷の調べを世界中の人に知ってもらいたいという熱い想いはこの曲を通して今も世界中に届けられているのです。

 

半音の魔術師!!

「剣の舞」を音楽的に分析してみると、半音が多用されていることがわかります。つまり、隣同士のぶつかった音が多く登場するということです。例えば「剣の舞」の冒頭の有名なメロディの場合、木琴がメロディーを演奏し、半音ずれた音で弦楽器が伴奏するという役割分担になっています。しかし、ただ半音ずれた音をぶつけているのではなく、その距離感が絶妙なのです。木琴の音と伴奏する弦楽器の音との間には3オクターブの差があります。そのことで、濁った音のイメージよりは、個性の際立った音という印象が強まり、楽器も堅い木琴の音と、弦の比較的柔らかい音というコントラストをつけることで、独特の響きを持つ音楽へとブラッシュアップさせているのです