デュカス「交響詩・魔法使いの弟子」

新完璧男のマジカルワール

ドディズニーの映画で有名になった交響詩「魔法使いの弟子」。作曲者デュカスは、気に入らない作品は一切残さない誇り高き完璧主義者でした。そんな彼の知られざる人生とは…

デュカスの名旋律に乗せて、魔法の世界へご案内しましょう。

 

オーケストラが描き出す物語

交響詩「魔法使いの弟子」は、ドイツの文豪ゲーテの詩の物語を音楽で表現した作品です。魔法使いの老師が弟子に留守を任せたところから物語は始まります。覚えた魔法を使ってみたくなった弟子は、古いホウキに水くみをさせようと魔法の呪文を唱えます。ホウキは動き出して水くみを始め、水槽の水かさは増えていきます。やがて弟子は、止める呪文を忘れたことに気づきますが、ホウキの水くみは止まりません。遂に弟子は、ホウキにおのを振り下ろし真っ二つに割ってしまいます。やれやれと弟子が安心したのもつかの間、今度は、割れたホウキが2本になって水くみを始めました。もう部屋の中は水びたし。あわや弟子が溺れそうになったところに老師が帰宅し呪文を唱えると、水はピタリと止まるのです。親しみやすいユーモラスな旋律にあふれた交響詩「魔法使いの弟子」は、ゲーテのコミカルな詩の世界を見事に描いた名曲なのです。

 

孤高の芸術家の到達点

パリに生まれたデュカスは16歳でパリ音楽院に入学。若手音楽家の登竜門「ローマ賞」に応募しましたが結果は2等。1等を取れなかったことに失望したデュカスは音楽院をやめてしまいます。彼は誇り高き完璧主義者だったのです。その後デュカスは兵役に就き、音楽とは無縁の生活を始めますが彼にとっては苦手なものばかり。過酷な訓練に音をあげていました。そうした中、音楽に理解のある軍楽隊の隊長との出会いがきっかけとなり、何と兵役中に2か月間オペラの上演を手伝う、という異例の任務を命じられたのです。オペラは大成功。デュカスは除隊し再び音楽の道を歩み始めます。今度は作曲のみならず音楽評論家の活動も始めました。他人の作品を批評する立場になったデュカスは、自分の音楽に対する完璧主義を一層強固なものにしていったと言われています。そうした中で出会ったのがゲーテの詩「魔法使いの弟子」でした。ドラマ性やユーモアに溢れたこの詩は、デュカスにとって完璧な詩であり彼の創作意欲を刺激したと言われています。デュカスは70以上の未発表の作品を全て破棄し、生涯に僅か十数曲しか発表しませんでしたが、そんな彼が自信を持って世に残した完璧な作品、それが「魔法使いの弟子」だったのです。