モーツァルト「夜の女王アのアリ」


心変わりは突然に!

一度聴いたら忘れられない女性の雄たけび!

超絶技巧のこの曲は、いったい何を歌っているの?

 

ほとばしる感情

女性の高音、ソプラノが歌う「夜の女王のアリア」は、モーツァルトの歌劇『魔笛』の中の1曲で、見せ場のひとつです。数あるオペラの中でもとりわけ超絶技巧が要求されるこの曲。通常、ソプラノの音域とされている高さよりも、さらに高い音域でめまぐるしく音が動くのです。そんな超絶技巧を使ってモーツァルトは何を表現したかったのでしょうか。「魔笛」は王子とお姫様が主役のおとぎ話。夜の女王はお姫様の母親で、娘を宿敵のザラストロに奪われています。オペラの始めで夜の女王は、その悲しみを切々と訴える曲を歌う、かわいそうな母親です。ところが場面が変わると、奪われた娘は宿敵の味方になっていたのです。すると、かわいそうな母親はひょう変!娘に宿敵を殺せと命じるのです。そこで歌われるのが夜の女王のアリア、「復しゅうの心は地獄のように胸に燃え」です。復しゅうに燃えるあまり、人間を超えた怪物となってしまった夜の女王。その人間離れした技で、燃え上がる怒りをモーツァルトは表現したのです。

 

魔笛の魔法

「魔笛」を作曲する10年以上前、モーツァルトは勤めていた宮廷で不満な日々を送っていました。オペラを満足に書かせてもらえなかったのです。「もっとオペラを作曲したい」という思いを胸にモーツァルトは、多くの芸術家が集まる、文化の中心ウィーンに移り住みます。この町でモーツァルトはオペラを作曲し、貴族の間で大ヒットします。しかし、時代は変わりつつあり、貴族ではない、新たな観客もオペラを楽しむようになり、ウィーンの郊外には民衆のための劇場が建ち始めていたのです。そんな民衆劇場で才能を発揮していたのがシカネーダー。多才な演劇人で流行を的確に捉え作品を次々と生み出していました。そんな彼が、モーツァルトに、これまでにないオペラの作曲を依頼します。時代の流れを敏感に感じ取っていたモーツァルトも作曲を引き受けるのです。二人が目指したのは、身分に関係なくどんな人も無条件に楽しむ事が出来るエンターテインメントでした。親しみやすい曲や、初めてオペラを見た人でもすぐに分かるスゴ技の曲「夜の女王アリア」など、いろんな音楽が詰め込まれた「魔笛」。モーツァルトは、新しい観客、民衆の心をもつかむエンターテインメントを作ろうとしたのです。そして、オペラ「魔笛」は、200年以上たった今では、世界中で愛される作品となったのです。

 

怒り七変化

「夜の女王のアリア」の怒りはメラメラと燃えています。音楽で表現されているのはどのような怒りなのでしょうか?

①瞬間沸騰

イントロはたった1小節。当時、怒りを表現するのに使われた分散和音で、一瞬で“キレた!"怒ったということを表現。

②加熱

短い音で8回も連打される音は、やがて、半分の3回になり、音の高さは上がっていきます。そしてついに最高音に達し、加熱していった怒りが頂点に達した事を表現。

③迷走

頂点に達した怒りがちょっとトーンダウン。絆という歌詞の部分で、音を伸ばしながら、高さが細かく上下します。ちょうど、裏声と地声が切り替わる高さの部分なので、不安定な感じが迷いを連想させます。最大の難所であり、聴きどころ。