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ジョン・シンガー・サージェント(1856年〜1925年)は、19世紀後半から20世紀前半のアメリカの画家。フランスで美術教育を受け、おもにロンドンとパリで活動した。上流社交界の人々を描いた優雅な肖像画で知られる。
1856年、サージェントはアメリカ人医師の子としてイタリアのフィレンツェに生まれ、少年時代をイタリアで過ごした。12歳の時、ローマでアトリエに通い絵を学んだ。1870年には故郷のフィレンツェに戻り、アカデミア・デッレ・ベッレ・アルティに通っている。18歳の時にはパリに出て、カロリュス=デュランに師事するとともに、官立美術学校にも通っている。こうしてアカデミックな美術教育を受け、1877年からパリのサロン(官展)に出品するようになる。
1884年、パリのサロンに出品した「マダムX」の肖像画(ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵)がスキャンダルにまきこまれる。この肖像画は当初『・・夫人の肖像』という題名で発表されたが、明らかに実在の女性であるゴートロー夫人(アメリカ出身で、フランス人銀行家のピエール・ゴートローと結婚した)を描いたと見なされた。この絵は人妻を描いたものであまりに官能的で品がないとして、当時の批評家から非難された。サージェントが翌1885年、パリを離れてロンドンに居を構えたのは、この絵をめぐるスキャンダルから逃げるためであった。
サージェントは肖像画家としての地歩を固め、ロンドンのロイヤル・アカデミーには出品しながら、1897年には同アカデミーの正会員となっている。さらに1891年にはボストン公共図書館の壁画制作を開始するなどしている。1887年にはパリ近郊の印象派の巨匠モネを訪問している。
サージェントは1905年頃からほぼ毎年アメリカを訪問しており、1916年にはボストン美術館の円形大ホールの天井画制作を依嘱されている。サージェントは古代ギリシャ・ローマの神話から想を得た天井画のほか、装飾レリーフのデザインなどホール全体の設計を担当し、1925年の死の直前まで制作に関わっている。肖像画家として知られるサージェントだが、1907年頃からは肖像画の注文を断り、晩年は水彩の風景画を描いている。1925年、ロンドンで没した。
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サージェントは「孤高とプライドを描く危険な作品」の成功に賭けていた。しかしサロンで発表されたこの絵は非難の嵐がふりかかる。実は発表当初、夫人の右肩のストラップがずり下げて描かれており(左図)、それを見た観衆は卑猥だと感じたのだった。マダムXには実在のモデルがいた。社交界の華とうたわれたゴートロー夫人で、彼女もアメリカ移民だった。夫人の危険なまでの美を表現しようとあいたサージェントの意図は裏目にでてしまい、不動の名声を手に入れるはずだった二人は嘲りと非難の対象となった。
夫人は社交界を追われた。もちろん原因となった肖像画の受け取りを拒否した。一方、サージェントは「マダムX」のストラップを描きなおし(上図)手元に残した。
サージェントはその後フランスを去り、新天地イギリスで成功をおさめた。美術界の要望で「マダムX」を公開してそれが名画と認められたが、サージェントは決してこの絵を手放そうとはしなかったが、ゴートロー夫人の死を知ると破格の安値で故国アメリカの美術館に売却した。
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