ジゼル

ジゼル

 1841年、パリ・オペラ座で初演された。音楽はアドルフ・アダンの作曲で振付はジュール・ぺローであった。ジゼルはロマンティック・バレエの代表作であり、大規模な改訂を経て今日でも頻繁に上演されている。数ある名作の中でも特にドラマ性に優れていることが人気の秘密であろう。

 

 ロマン派の詩人ゴーティエが、ハイネが紹介したオーストラリアの精霊伝説に着想を得て昨品にした。結婚を目前にして死んだ娘が精霊(ウイリー)になって、森を通りかかる若い男を死ぬまで踊らせるという伝説である。


 

1幕

 ドイツのどかな農村では収穫祭を迎えようとしていた。踊りの好きな村娘ジゼルは、向かいの家に住むロイスに恋をする。ロイスは貴族で、名前をアルブレヒトというが、身分を偽ってジゼルと付き合い結婚の約束までしていた。森番のヒラリオンもジゼルに恋をするが、ジゼルはロイスに夢中でヒラリオンに冷たくあしらわれて面白くなかった。ヒラリオンは村の若者とは様子が違うロイスに疑問をもち、いつか秘密を暴いてやると思っていた。ヒラリオンはロイズの小屋にへこっそりと侵入し、貴族の剣を隠しているのを発見する。ヒラリオンはロイズが村の青年ではないことを確信し、貴族が農夫に変装してジゼルをもてあそんでいると考えた。ロイスの身分を暴露してジゼルののぼせあがった頭を冷やしてやろうとその剣を持ち出した。

 ある日、狩りを楽しむ大公クールランドと娘のバチルダの一行が現れ、ジゼルの家で休息することになる。バチルダは実はアルブレヒトの婚約者だった。バチルダとジゼルはお互い結婚を控えていることもあり仲よくなった。

 まもなく収穫を終えた農夫や娘たちがやって来て、収穫際のダンスを踊り始めた。貴族たちが立ち去ったのを確かめたロイスも戻ってきて、ジゼルも小屋から出て来た。ジゼルは収穫祭の女王に選ばれぶどうの蔓で編んだ冠を授けられた。そして農夫や娘たちは熱狂的に踊り始めた。ジゼルとロイスも恋する喜びを踊り続けた。

 そこへヒラリオンが剣を持って乱入し、ロイスは本当は公爵で、ジゼルをもてあそんでいるとった。ジゼルは笑い飛ばし信じなかった。するとヒラリオンは紋章の入った立派な剣をジゼルの目の前に突き出し、これはあいつの小屋の中で見つけたんだと言った。

 ジゼルはロイスに本当なのと真っ蒼になって訊ねた。ロイスは「そんな事があるわけないじゃないか、僕はただの農夫だよ」と言い逃れようとした。

 ジゼルはロイスの言うことを信じたいと思い、ロイスに寄り添った。じれったく思ったヒラリオンは、小屋にかけられた角笛を手にとって吹き鳴らした。

 角笛は響き渡り、大公のお呼びだと思った貴族たちが帰って来た。そしてロイス(アルブレヒト)を見つけ、うやうやしく挨拶をした。大公やバティルド姫も小屋から出てきて粗末ななりをしたアルブレヒトを見て驚き、一体どうしたのかとわけを訊ねた。アルブレヒトは「一人で狩をしていました」と言って、差し出された婚約者のバティルド姫の手をとり接吻した。

 それを見たジゼルは裏切られたことを知り、発作的にアルブレヒトとバティルド姫の間に割って入った。そしてバティルド姫に向かって「この人は私の大切な婚約者です」と叫んだ。バティルド姫はあきれて「何を言っているの、この方はシレジアの公爵様で、私の婚約者なのです」と言い聞かせた。

 凍りついたジゼルはロイスにすがりつこうとしたが、ロイスは下を向いたまま何も言うことができなかった。絶望したジゼルはすでに正気を失っていた。楽しかった思い出がジゼルの脳裏を駆け抜けた。そしてジゼルは錯乱したまま、かつてロイスと共に踏んだダンスのステップを一人で踏んだ。虚弱なジゼルの心臓はすでに制御を失い、苦しげなジゼルは助けを求めて皆の間をさ迷い、母ベルタの腕の中で息絶えてしまう。ヒラリオンとアルブレヒトは互いの行為を責め合うが、アルブレヒトは村人に追い出される。

 

 

2幕

 森の沼のほとりのジゼルの墓場が舞台になる。樺やポプラ、糸柳などの巨木が鬱蒼と茂っており、それらの樹々はよどんだ池の中までねじくれた根っこを伸ばしている。昼間でも薄気味悪く感じられる場所であったが、月の光に照らされて青白く浮かび上がったその光景は、この世のものとも思われぬ不気味さを漂わせていた。

 この墓場は結婚を前に亡くなった処女の精霊・ウィリたちが集まる場所であった。精霊の女王ミルタが現れ、今夜新しい仲間が加わることを告げると、精霊たちの踊りが始まる。やがて精霊たちはジゼルの墓に許しを請いにやってきたヒラリオンを見つけ取り囲むだ。、ヒラリオンは休むことできない踊をおどらされ、力尽き命乞いをするが、ミルタは冷たく突き放し死の沼に突き落とす。

 精霊たちがヒラリオンを追っている間、ジゼルを失った悲しみにくれるアルブレヒトがジゼルの墓を訪れる。墓にひざまづき、許しを乞うていると、目の前に不思議なものが現れる。ジゼルではないだろうか?アルブレヒトは驚きながら吸い寄せられるようにジゼルの方に手を伸ばし抱きしめようとした。しかし精霊となったジゼルは手をすり抜けてしまう。

アルブレヒトも精霊たちに捕まるが、精霊になってもアルブレヒトを愛し続けるジゼルは、何とかアルブレヒトを助けたいと思う。

 精霊の女王ミルタに命乞いをするが、女王ミルタは2人に踊り続けるように命じる。ジゼルと踊り続けたアルブレヒトは段々と弱って行きついに倒れてしまった。もう駄目だと思ったその時、夜明けを告げる鐘がなり、霊力を失った精霊たちは墓場へと引き戻された。

 アルブレヒトは助かったが、ジゼルもまた墓場へ帰らなければならなかった。朝の光を浴びながらジゼルはアルブレヒトに別れを告げながら消えていく。

  一人取り残されたアルブレヒトは深い愛と永遠にジゼルを失った喪失感に心が引き裂かれるのだった。

 

 

 見所は2幕のジゼルとアルブレヒトのパ・ド・ドゥである。流れる曲は美しく幻想的なアダージョで、死んで精霊になったジゼルは空気に舞うように踊る。ジゼルは1幕では純朴な村娘と狂乱のシーンを、2幕では精霊の役をどのように演じるかが見所である。