最後の言葉

最後の言葉
 日本の医療は世界第1位、アメリカの医療は世界37位と、日本の医療は海外から高い評価を得ている。この世界がうらやむ日本の医療は、昭和36年に設定された国民皆保険制度によって成り立っている。つまり国民皆保険制度によって日本国民は誰でも平等に、低額で最高の医療を受けている。我が国の医学が特に優れているわけではないが、この国民皆保険制度によって我が国の医療は世界第1位を堅持している。しかしバブル崩壊後の財政難から、医療と経済とを連動させる政策により、国民医療費はこの数年間横ばい状態になっている。
  国民皆保険制度が始まって以来、医療費の負担割合、つまり本人、保険者、国がどのような割合で医療費を負担するかが常に問題になってきた。そしてこの数年 来、国が出すべき医療費を減額する政策によって、本人負担は増大し、医療機関への診療報酬は減額された状態になっている。医学が進歩し、高齢化が進んでい るのに、国民医療費は抑制されたままである。これでは医療の質の向上、安全性は確保できない。
 この医療費問題に対し政府が考えたのが混合診療の解禁である。小泉総理は混合診療解禁の支持を打ち出し、また厚労省も乗り気である。この混合診療解禁は何を意味するのか、政府からの説明もなければ、マスコミも黙ったままである。また99。9%の医師も混合診療を誤解している。
  現在の混合診療は差額ベッド、給食、おむつ代など直接治療とは関係のない部分に限定されている。しかし政府がたくらむ新たな混合診療は、患者の快適性の部 分ではなく、患者の生命に直接かかわる部分にも混合診療を導入しようとしているのである。つまり診察料、特殊な薬剤、特別な検査などを混合診療と称し全額 患者負担をもくろんでいるのである。また混合診療はイコール自由診療となりイカサマ診療がまかり通ることになる。
  小泉総理が何を考え、あるいは何をもくろんでいるかは、混合診療によって誰がもうかり、誰が損をするのかを考えればその意図は明確となる。小泉総理に混合 診療を勧めたのは、小泉総理の直下にある旧総合規制改革会議である。この会議の議長はオリックス社長・宮内義彦で、そのメンバーは財界人がほとんどであ る。つまり「混合診療は小泉総理と宮内氏の陰謀」と捉えることができる。小泉総理は財政赤字から国からの医療費支出を少なくしたいと思う。財界は医療で金 儲けをしたいと思う。さらに小泉内閣は米国の外圧に弱いという特徴がある。米国の保険会社は米国政府に圧力をかけ、日本の混合診療を進めようとしている。 しかし私たちはアメリカン・ファミリーではなくジャパニーズ・ファミリーなのである。日本人を食い物にするような、保険会社をもうけさせるような混合診療 などは絶対に許してはいけない。
 混合診療は自動車の保険を考えてみればよく分かる。自動車の保険は強制保険と任意保険の2本立てで、路上を走る2割の自動車は任意保険には加入していない。もしこの任意保険に加入していない自動車に轢かれた場合、遺族は強制保険の部分しかもらえず、結局、被害者は泣き寝入りとなる。
 混合診療導入は、いずれ医療も自動車と同じように強制保険と任意保険の2本立てになることを意味している。高額の治療費を払うために本人は民間保険に入らざるをえない。そうなると病人の任意保険料は高く、健康な人の任意保険料は安くなる。しかし誰でもいずれ病気になるのだから、国民全体が困ることになる。
  このように混合診療解禁は弱者を崖から突き落とす政策であり、低所得者が正当な医療を受けられず、医療難民となり路頭を迷うことになる。国民の生命の価値 は所得とは関係なく、日本人1人ひとり同じはずであるが、貧富の差により医療の平等性が失われてしまう。国民を不幸にするような混合診療の導入は絶対に許 してはいけない。
 国民はこの40年余年にわたる国民皆保険制度の恩恵を忘れ、医療に対し不満ばかりを言うが、国民の生命線ともいえる国民皆保険制度を国民の力で堅持すべきである。国民皆保険制度を堅持し、国民を不幸にする混合診療解禁に断固反対すべきである。
 世の中には医療以外にも、政治、経済、教育など大きな問題がある。患者を治すのは医師の役割であるが、それ以上に医師として、あるいは国民としてなすべきことがある。「小医は身体を治し、中医は患者を治し、大医は国と社会を治す」、これを7年間の集大成の言葉としたい。