薬屋栄え医療廃る

薬屋栄え医療廃る

  私たちの周りにはへそのゴマほどにも役に立たないモノが溢れている。業者を保護するだけの車検制度、ゴミを増やすだけのダイレクトメールや過剰包装紙、雰 囲気だけの風邪薬の宣伝、等々である。さらに身の回りには有害でありながら善意を装った無駄も大いに溢れている。寄生する天下り官僚、余計なお世話の行政 指導や公的規制、カルテルの集まりである業界団体、金を出さずに口ばかり出す厚生省、等々である。

  日本が経済大国になっても豊かな生活を実感できないのは、これら無駄な部分に財源を奪われているせいである。さらに無駄を容認する社会への失望感が人間の 心の豊かさまでも奪う結果になっている。この誰もが認める社会の無駄が改善しないのは、無駄が一部の人たちの利権になっているからである。美味しい利権に 群がる越後屋とタダ酒や保身ばかりの代官とが悪知恵を出し合っているからである。

  人間の考えることは今も昔も変わりはしない。経営倫理を失った営利中心の世の中では、すべての動機は損得勘定である。越後屋は代官をおだて、代官は将来の 保証を見返りにコメの値段を上げようとする。新たな政策は新たな利権を生み、代官は法案を複雑にして一般人が容易に反対できない構造にしている。最近、規 制緩和が叫ばれるのはこのような官民癒着を防止することが目的なのである。

 製薬会社の役員名簿を見れば元厚生省役人がゴロゴロしている。もちろん特殊法人はほとんどが元厚生省役人で占められている。政治の大綱を決める審議会などは、省庁が人選を含んだ運営をしているので官僚の隠れミノ的存在に他ならない。もちろん審議会の委員は官僚OBとその仲間たちである。このように日本は国の隅々まで官僚に支配され、もはや日本の国は自由主義の国家とはよべない。官僚自由主義の国家になっている。

 日本国の財政は補助金バラマキ政策により、地方を含めると700兆円の借金財政である。タヌキしか通らない林道の舗装工事、年に数回の利用しかない市民ホールの建設、議員たちの大尽遊びの公費旅行、このような無駄が積もり積もっての700兆 円である。贅沢による財政難が医療財政を圧迫し、医療費抑制政策が病院の取り分を圧縮し、その結果多くの病院が赤字経営を余儀なくされている。さらに行政 は日本の医療費を高すぎると国民を洗脳し、医療費高騰の罪を病院になすりつけ、医療費抑制政策を当然とする雰囲気を作り出している。これは情報操作を得意 とする役人の悪知恵である。

  国の政策は子供の治療費を値切る女郎屋通いの父親と同じである。お人好しの医師は、相手は貧乏人だからと自腹を切って治療をするが、遊び人の親は今日も こっそり吉原通いである。女郎や飲み食いに金を払っても、医療に金を払うつもりは毛頭なしである。とても悪い父親である。

 厚生省は現在30兆円の医療費が10年後には68兆 円に倍増すると宣伝している。そしてこのような嘘で固めた脅しをかけると同時に、医療費の自然増まで抑制するのだから歪みの生じないはずはない。育ち盛り の子供に小さな服を着せたまま我慢させているのと同じである。しわ寄せは子供と医療現場が負うことになる。とても、とても悪い親である。

  日本の医療の元凶はこの医療費抑制政策であるが、医療現場に薄く、クスリ屋などの医療周辺に厚く医療費が配分されていることが問題である。日本の医療費の 三割は病院を素通りして製薬会社に流れ、あるいは医療機器や検査会社へ流れ、そして病院には赤字だけが残る構造になっている。医師は患者を助けるつもりで 医療周辺産業を太らすばかりとなっている。

  日本の医療をクスリ漬けと人々は医師を非難するが、クスリの使用量は欧米とそれほどの差はない。問題なのはクスリの量ではなく値段なのである。クスリの副 作用をあれこれ言うが、最大の副作用は高額な薬剤費である。もちろんこの高薬価によって製薬会社は儲け、そして医師の技術料は低く設定されたまま病院経営 は危機的状態に陥っている。これが越後屋と代官が密室で設定した日本の医療のしくみである。

  戦後、日本の産業界において倒産の経験がないのは製薬業界だけである。バブル後も経営利益率は二桁を維持し、その証拠に大手製薬会社はこの不況下に株価を 上げている。その結果、医療周辺産業は儲かるという熱い視線が集まり、タバコやビール会社までもが医療に参入してきている。彼らの動機はもちろん国民の健 康を害してきた罪滅ぼしではなく、単に儲かるからである。医療周辺にはビジネスチャンスとばかりに様々な業種が乱入し、貴重な医療財源の奪い合いを呈して いる。

  国の医療への姿勢は消費税の仕組みを見てもよく分かる。国は消費税でひとり丸儲け、製薬会社や医療器具メーカーは消費税を値段に上乗せして影響なし。そし て病院は消費税を患者に転化できずに損失を受けている。この構図を見ても、医療現場だけがいかに虐げられているかが分かる。

 国が医療に介入するのは国民の生命と健康を守るためである。しかし今の国のやっていることは薬屋などの医療周辺産業を栄えさせるだけで、患者のための医療機関は痩せ衰えるばかりである。

 まさに薬屋栄え医療滅びるである。