鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザ 平成16年(2004年) 

 平成16年1月12日、国内では79年ぶりとなる鳥インフルエンザの発生が確認された。確認されたのは山口県の養鶏場「ウインウインファーム山口農場」で、同農場では前年12月28日から鶏が次々と死亡し、その数は約6000羽に達した。

 ウインウインファーム山口農場の周辺は立ち入り禁止になり、半径30キロ以内の約30の農場では鶏や卵の移動が禁止された。山口農場のすべての鶏は処分され地中深く埋められた。白い防護服に身を固めた作業員が農園を消毒する姿が何度もテレビで放映されたが、この消毒はインフルエンザウイルスの表面が次亜塩素酸ナトリウム液、アルカリ液、ホルムアルデヒド液などで壊れやすいことを利用した消毒法であった。

 これらの対応によって鳥インフルエンザは封じ込んだと思われたが、2月17日に大分県の農場で鳥インフルエンザが発生。さらに京都府丹波町の浅田農産でも発生した。浅田農産では2.8万羽の鶏が死んでいたが、保健所に通報せずに鶏を出荷していた。この鳥インフルエンザの隠蔽(いんぺい)がマスコミで非難され、浅田農産の社長が騒動のさなかに自殺する事態に至っている。

 動物衛生研究所(茨城県つくば市)の調べで、これらの鳥インフルエンザは、前年12月から韓国で猛威を振るっていた「H5型」に属する高病原性鳥インフルエンザであることが分かった。韓国の感染地区は15カ所で、鶏76万羽、アヒル104万羽、卵1000万個が廃棄処分にされていた。このウイルスが野鳥とともに日本海を越えてきたのである。

 ヒトが感染するインフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3種類であるが、鳥に感染するのはA型のみである。インフルエンザウイルスはウイルス表面の粒子タンパクであるヘマグルチニン(赤血球凝集素 HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)の違いによって、ヘマグルチニンはH1からH16の16種、ノイラミニダーゼはN1からN9の9種類に分類され、その2つの組み合わせの数だけ亜型が存在する。この亜型によってインフルエンザウイルスはH1N1、H16N9と略称で分類されるが、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼに亜型が多いこと、さらに変異しやすいことから、インフルエンザウイルスは毎年のように姿を変えて流行を繰り返す。

 カモなどの野生の水鳥は、鳥インフルエンザウイルスを無症状のまま保持している。鳥インフルエンザウイルスは野生の水鳥にとっては自然宿主であるが、頻繁に遺伝子の変異を繰り返すため、まれに鶏やアヒルなどの家禽類に高い病原性を発揮することがある。このタイプが高病原性鳥インフルエンザで、感染すると家禽類の大半が死亡する。このため養鶏産業の脅威となっている。

 鳥インフルエンザは鳥類の感染症で、ヒトが感染する季節性のインフルエンザとは別である。鳥インフルエンザがヒトに感染する可能性はきわめて低く、感染してもヒトからヒトへの感染はないとされている。

 生きた鶏との接触でヒトが感染することはまれで、また鶏肉や卵をヒトが食べて感染した例はない。ところが平成9年、香港の鶏市場で18人が感染し6人が死亡(H5N1)、平成15年にはオランダ防疫従事者80人が感染し1人が死亡(H7N7)する例外があった。

 日本国内での高病原性鳥インフルエンザの発生は、これまで大正14年に1度だけであったが、今後日本で発生しない保証はない。海外での高病原性鳥インフルエンザの報告は多く、香港、中国、米国、ドイツなどで鳥インフルエンザが発生している。日本での発生が少ないのは、日本が島国で、野生の水鳥が大陸から渡ってくる頻度が少ないためとされている。

 鳥インフルエンザが恐ろしいのは、香港の例が示すようにヒトに感染した場合の致死率が50%と高いことで、この強毒変異ウイルスによる世界的な大流行(パンデミック)が起きる可能性が否定できない。また弱毒であっても遺伝子変異によって新型インフルエンザが出現する可能性がある。平成21年に新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)が世界的に流行したが、専門家は豚よりも鳥インフルエンザの脅威を想定している。