集団発生したオウム病

集団発生したオウム病 平成13年(2001年) 

 平成13年7月、島根県松江市の宍道湖畔に観光施設「松江フォーゲルパーク」が開園した。松江フォーゲルパークは季節や天気に左右されない満開の花に囲まれ、鳥約1300羽が飼育され、自然の中での別世界を売り物にしていた。

 松江フォーゲルパークで、同年12月の上旬から中旬にかけて、施設を訪れた観光客12人、飼育係5人がオウム病に感染していることが分かった。感染した職員は20から54歳で、すべて鳥の飼育を担当していた。観光客12人は島根県が6人、広島県が4人、大阪府が2人であった。オウム病の症状は発熱が主で、幸いにも死者は出なかった。

 松江フォーゲルパークは、屋内外の施設に鳥が展示され、来園者が自由に鳥へ餌を与えることができた。施設は平成14年1月16日に閉鎖されたが、入場者は1日平均1600人、開園から閉鎖までの入場者は約28万5000人であった。

 集団オウム病騒動のきっかけは、平成13年12月28日、松江市内の医療機関から施設の職員がオウム病の疑いがあると保健所に連絡があったことである。松江フォーゲルパークへ立ち入り調査が行われ、国立感染症研究所が疫学調査を行い、松江市はオウム病の専門家10人によるオウム病調査委員会を設置して調査が行われた。

 オウム病はクラミジアが病原体で、主としてオウムなどの鳥から感染する人獣共通感染症であった。クラミジアは真核細胞内でのみ増殖する寄生性の原核生物で、オウム病クラミジアはオウムのみならず、ハト、鶏、文鳥などにも感染する。鳥類はオウム病クラミジアの自然宿主で、症状の出ない不顕性感染がほとんどである。

 ヒトへの感染は、鳥の排泄物や羽毛などを吸入することによる。ヒトが感染すると1から2週間の潜伏期間の後に発病する。平成11年4月に施行された新感染症法では4類感染症に分類され、届け出が義務化され、日本では年間およそ30人前後の患者が報告されている。オウム病の集団発生はきわめて珍しく、今回の集団発生は、平成13年6月、神奈川県内の動物園においてシベリアヘラジカから職員5人が感染した例に続いて国内2例目であった。

 松江フォーゲルパークでは開園当初から獣医師が不在で、鳥の健康管理や検疫が不十分であった。また熱帯鳥を展示しているため、11月中旬以降から施設内の窓を閉め切っていた。このように施設側のオウム病への認識の甘さがあったが、健康な鳥のクラミジア保有率はおよそ10%とされ、起きるべくして起きた感染ともいえた。

 松江フォーゲルパークでは感染源を調べるため、施設内の鳥の糞便、土や水などを集め、クラミジア遺伝子の検出を試みた。その結果、鳥9検体からクラミジア遺伝子が検出され、遺伝子の塩基配列がほぼ一致した。

 松江フォーゲルパークは、施設の全鳥にテトラサイクリン系抗生物質を投与し、クラミジア遺伝子の陰性化を確認。さらに施設内を塩素で消毒し、土壌からもクラミジア遺伝子の陰性を確認して、平成14年4月に全面再園とした。

 日本では動物園のみならず、学校や家庭でもオウムやインコ類が飼われており、また野鳥もクラミジアを保有している。これらすべての鳥からクラミジアを排除することは不可能で、またこれらがすべてヒトへ感染するわけではない。鳥類はクラミジアを保有しているのが自然と認識し、鳥の健康管理や適切な飼育方法、さらに過度の接触をしなければ感染予防は可能である。注意すべきことは、鳥かごの中を清掃するときに、乾燥した排泄物、羽毛などを吸い込まないことである。また食べ物を口移しで与えるのは、感染の危険性を高めることになる。診断する医師にとって必要なことは、発熱患者には鳥との接触の有無を確認し、オウム病を常に念頭におくことである。

 臨床的にはセフェム系の抗生物質が無効なことで、第1選択薬はミノマイシンなどのテトラサイクリン系で、次いでマクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質の投与である。なお病院には鳩の群れる風景が似合うが、病院での鳥類は衛生上きわめて良くない。