ダイエット漢方死亡事件

 ダイエット漢方死亡事件 平成14年(2002年) 

 平成14年7月12日、厚生労働省は中国製ダイエット食品で肝障害患者が多発していると発表した。問題となったのは「御芝堂減肥膠嚢(おんしどうげんぴこうのう)」(発売元・広州御芝堂保健制品有限公司)と「繊之素膠嚢(せんのもとこうのう)」(発売元・広東恵州市恵宝医薬保健品有限公司)の2種類の中国製ダイエット食品で、厚労省は製品名を公表して注意を呼び掛けた。

 平成13年頃から、厚労省は両食品によって肝機能障害をきたした例を、全国の医療機関から報告を受けていた。報告には、平成14年2月から約1カ月間、御芝堂減肥膠嚢を服用していた東京都内の60代の女性2人が慶応大病院に入院し、1人が急性重症肝障害に陥り、1人が同年5月に死亡していた例が含まれていた。ダイエット食品の危険性を最初に指摘したのは慶応大医学部の足立雅之医師であった。さらに劇症肝炎から意識障害に陥った19歳の女性、さらには生体肝移植が行われた44歳の女性の例もあった。

 平成14年8月30日、厚労省は「御芝堂減肥膠嚢」による被害者は418人、入院53人、死亡1人と発表。さらに「繊之素膠嚢」の被害者は192人、入院70人、死亡2人と発表した。この2種類以外に112種類の中国製の健康食品が、美麗痩身、軽身美人、茶素減肥麗、やせチャイナ、スーパースレンダー、スリム10、ボディーパーフェクト、健美などの名前で売られ、中国製のダイエット健康食品の被害者は最終的に865人で4人が死亡していた。

 御芝堂減肥膠嚢は容器に「減肥」の効能が書かれており、繊之素膠嚢には「甲状腺ホルモン」や食欲抑制剤「フェンフルラミン」が含まれていた。甲状腺ホルモンは健康人が飲むと心筋に悪影響があることから医薬品以外では使用禁止になっていた。フェンフルラミンは心弁膜症や肺高血圧症の副作用があることから日本では医薬品としても認可されていなかった。中国製ダイエット健康食品にはこのような危険な薬剤を含んでいたが、漢方薬は原料が天然成分なので安全との思い込みがあった。この漢方という言葉に便乗し、イメージが先行して健康食品が売られていたが、健康食品の有効性や安全性は不明で、さらに国が認めていない食品なので、被害を受けても補償は得られず、誰も責任を取らないことになっている。

 医薬品を含む食品は薬事法で販売は禁止されているが、薬剤を含んだ健康食品が流通したのは、インターネットや輸入代行業者が増え、個人輸入は薬事法の規制外だったため気楽に注文できたからである。中国では医薬品や健康食品の規制は緩やかで、同じ名前の漢方薬でも内容が違っていることもあり、輸入業者は成分を検査することもなく、まさに野放し状態であった。

 中国製のダイエット食品による死亡例は日本だけでなく、シンガポールやマレーシアでも相次いでいた。シンガポールでは「スリム10」という商品が、テレビCMで大々的に宣伝され、女性タレント(43)が肝不全で死亡。また人気テレビ司会者のアンドレア・デクルスさん(27)が劇症肝炎になり、婚約者の俳優から生体肝移植を受けたことが話題になっていた。 

 「御芝堂減肥膠嚢」を日本に輸出している上海の貿易会社社長(49)は、 2000から3000箱が日本に出回っていると述べ、健康被害が拡大する可能性を示唆した。また中国でも「御芝堂清脂素」を服用していた女性2人が死亡しており、中国政府は健康食品としての認可を取り消すことになった。

 中国製ダイエット食品による健康被害が問題になったが、国産のダイエット食品でもラベルの表示と実際の中身が大幅に違っている商品が出回っていた。商品のラベルには栄養改善法により、タンパク質、脂質、炭水化物などの含有量の表示が義務付けられているが、ダイエット食品の多くは商品が売れるようにと、糖分や脂質の量を少なく表示していた。

 中国製のダイエット食品による被害は一時沈静化するが、平成17年5月、東京都でダイエット健康食品「天天素」を服用した10代の女性が死亡した。「天天素」には向精神薬「マジンドール」や未承認の医薬成分「シブトラミン」が含まれ、その被害者は33都道府県で123人となっている。平成17年8月18日、「天天素」を販売したとして、東京都新宿区新宿の健康食品販売業・山崎義章容疑者(52)が薬事法違反容疑で逮捕された。山崎容疑者は「天天素」を中国から仕入れ、ホームページに「おなか回りからお尻にかけてやせ始める」と広告を出して販売していた。さらに同様の容疑で8人が逮捕されている。

  健康神話に便乗した健康食品ほど怖いものはないが、健康食品は儲かることから、同じような事件が起きるのである。