病院ランキング

病院ランキング 平成6年(1994年)

 もし病気になったら、どの病院へ行けば最も良い治療を受けられるのか。このことは生命にかかわることだけに、患者にとって知りたいと思うのは当然のことである。このような患者心理を反映するかのように、平成6年頃から病院の内容を紹介する本がブームとなった。

 患者のニーズがブームを引き起こしたといえるが、膨大な医師の中から良い医師を選ぶのは不可能に近かった。しかも細分化された専門医の実力を調べるには大変な手間がかかった。そのため病院紹介本は、各医学会や大学職員の名簿を流用したものが多かった。しかし学問と臨床は別であり、学問的に優れた医師が必ずしも臨床が得意とは限らなかった。大学で研究だけの医師の名前が名医として掲載されることが多く、その内容はお粗末だった。

 医師たちは、自分の専門分野ならば仲間同士の医師の実力は分かっていた。そのため紹介本に載った医師の名前に首をかしげることがあった。しかし自分の名前が載れば、恥ずかしながらも大きな満足があった。

 平成6年9月に「日本全国病院ランキング」(丹羽幸一著、宝島社)が出版された。この本はがんや心臓病、糖尿病など約40の病気を対象に、全国の病院を1位から30位(一部は10位)までランク付けしたもので、病院のランキング本としては初めての出版で、全国約1万の病院を調査してランクを付けたものであった。

 日本人はランキングが好きで、知りたいことをランキングで示すことは分かりやすいことであった。もちろん評価方法に問題はあったが、レストランのランキング本と同様、どのような評価方法でも非難は受けなかった。出版社にとっては患者さんを満足させ、また売れればよかった。この「日本全国病院ランキング」が、病院のランキング本の出版ブームとなった。

 ランキングの方法はさまざまだった。<1>患者アンケートによるランキング。これは口コミ情報による病院評価であるが客観的データに欠けていた。<2>医師へのアンケートによるランキング。これは医師が医師を選んだものであるが、医師はそれほど多くの医師を知らないという難点があった。<3>病院に行って実際に調べる方法。この方法は医師の評価よりも、職員の対応、トイレの状態など主にアメニティの評価であった。<4>病院の年間手術件数などを用いる方法。年間手術件数はある程度の目安になるが、専門的な医療を行っている大病院が主であった。

 患者にとっては、どの病院にどのような医師がいて、どの病院の医療体制が優れているかを知りたいのである。しかし実際にはきわめて難しいことであった。病院評価は、プロの医師でも判断がつかないことが多いからである。

 またランキングの高い病院を受診しても、優秀な医師が主治医になるとは限らなかった。たとえ有名な医師の診察を受けても、有名な医師は多忙なので、必ずしも濃厚な対応は期待できなかった。また医学的に優れている医師と、患者の心をいたわる医師とは別であった。患者の多くは専門性の少ない病気で、その場合には、大病院よりも親身になれる中小病院の方が優れているともいえた。

 医療内容や治療に関しては、病院よりもむしろ医師によって左右されることから、ランキング本は単なる目安であった。厚生省も平成9年から病院機能評価を始めたが、調査結果は合否だけで詳細は公表されていない。ランキング本は興味本位の側面があったが、患者の要望が強いため売り上げを伸ばしていった。

 最近では、病院を知る上で参考になるのはインターネットによる病院のホームページである。平成8年にウィンドウズ95が発売されてから、インターネットの進歩は目覚ましく、数年でインターネットは広まっていった。

 多くの病院はホームページを持ち、また病院検索も容易になっている。いずれにしても最終的には実際に診察を受け、自分に合うかどうか確かめる以外にない。医師と患者には相性というものがあり、4組の夫婦がいれば1組が離婚する時代に、どれほど素晴らしい医師であっても相性も重要である。