火山ガスによる被害多発


火山ガスによる被害多発 平成9年(1997年) 

 平成9年、日本の火山活動は穏やかだったが、なぜか火山ガスによる痛ましい犠牲者が相次いだ。まず7月12日の深夜、青森県の八甲田山の田代平で、訓練中の陸上自衛隊隊員が山麓(さんろく)の窪地(くぼち)で次々と倒れた。先頭を歩いていた隊員2人がうめき声をあげて倒れ、助けようとした隊員たちも倒れた。救急車7台が、隊員たちを青森市内の病院へ運んだが3人が死亡した。

 この事故は、窪地に無臭性の二酸化炭素が滞留していたことによる。空気中の二酸化炭素濃度は通常は0.038%で、15〜20%が致死濃度とされているが、窪地の二酸化炭素の濃度は24%で、窪地に噴気孔が4カ所あったことから火山ガスによるとされた。通常ならば有毒ガスは風に吹かれて拡散するが、窪地のため二酸化炭素が拡散せず高濃度になったのである。

 この事件から2カ月後の9月15日、福島県安達太良山をハイキング中の4人が硫化水素によって死亡した。死亡したのは、理容師グループ14人中の4人で、グループは猪苗代の登山口から登りはじめ、午前10時頃に山頂から1キロ離れた沼ノ平を歩いていた。途中で道を間違え、迷っているうちに3人が次々と倒れ、駆けつけた女性1人も倒れた。

 沼ノ平火口付近は前年に噴火があり、硫化水素や二酸化炭素の発生があったが、入山規制はなされていなかった。硫化水素は空気中の濃度が0.01%で中毒症状を起こし、0.1%でほぼ即死する。翌日、強風下で行われた現場検証では0.01%の濃度の硫化水素が検出された。安達太良山は、高村光太郎の「智恵子抄」にうたわれた名山で、年間20万人以上が訪れていた。

 さらに11月23日、熊本県の阿蘇山中岳火口で観光客2人が火山性の亜硫酸ガスで死亡した。阿蘇山中岳火口では、平成2年に3人、平成6年には1人の観光客が死亡していた。平成9年以外の火山ガスの事故としては、昭和46年12月27日、草津白根山の振子沢で、温泉造成のために掘られていたボーリング孔から硫化水素が噴出、スキーヤー6人が死亡している。昭和51年8月3日、同じ白根山の山頂から北西約600m付近で、登山中の高崎女子高校生ら約40人が遭難、噴出した硫化水素によって高校生2人と引率教員1人が死亡している。

 最近では、平成12年東京都三宅島の雄山で火山ガスが噴出し、平成17年2月に帰島が許可されるまで島民の長い避難生活が続いた。なお三宅島では火山ガスの噴出が現在も続いており、島の45%が立ち入り禁止区域になっている。平成17年12月29日、秋田県湯沢市の泥湯温泉の駐車場で、雪でできた窪地に滞留した硫化水素によって一家4人が死亡している。

 海外での最大の犠牲者を出したのは、1986年8月21日の深夜、西アフリカのカメルーンのニオス湖で起きている。ニオス湖の火口湖が噴火、噴出した高濃度の二酸化炭素が谷沿いに流下し1700人余りが死亡している。ニオス村の住人1200人のうち、助かったのは6人だけであった。二酸化炭素は空気より重いため、地表をはうように広がり、谷底で暮らしていた住民がベッドで寝たまま酸欠死したのであった。

 火山ガスとは火山活動に伴い噴出する有毒ガスのことである。火山ガスの成分は95%以上が水蒸気であるが、二酸化炭素、二酸化硫黄、亜硫酸ガス、硫化水素、塩化水素などを含んでいる。火山ガスの噴出は、火山の活動が活発な時だけでなく、穏やかな時にも起こりうる。通常、火山ガスは風によって拡散するが、地形によっては高濃度の火山ガスが窪地にたまり事故を引き起こす。異変を感じたらより高い所へと逃げるのが原則である。

 火山の噴火による被害は、昭和28年4月27日に熊本県の阿蘇山が噴火、火口近くにいた修学旅行の兵庫県加古川市西高校340人など観光客400人の上に噴石が降り、熊本市北署の巡査部長(48)、その男児(3)、大分県の男性(24)、加古川市の西高男子生徒(17)、大阪府の桜塚高男子生徒(17)ら6人が死亡している。