男女産み分け

 【男女産み分け】昭和61年(1986年)

 昭和61年5月31日、慶応大医学部・飯塚理八教授らのグループが、人工授精によって女児の産み分けに成功したと発表した。

 人間の性別は、1対の性染色体によって決定される。性染色体がXYであれば男性で、XXであれば女性である。受精する前の「卵子の性染色体は常に1個のX染色体を持ち、精子はX染色体を持つものと、Y染色体を持つものに分かれる」。つまり赤ん坊の性別は、受精した精子がY染色体であれば男性となり、精子がX染色体であれば女性になる。このように、赤ちゃんの性別を決定するのは精子の性染色体で、母親側の卵子は影響しない。そのため、精子のXあるいはY染色体を何らかの方法で分離できれば、男女の産み分けが可能となる。

 飯塚教授は、精子のわずかな重さの違いを利用して、男女の産み分けを可能にした。それはシリカゲルの一種であるパーコール液の中に精子を入れ、遠心分離器によって比重の重いX染色体を含んだ精子を取り出し、人工授精によって女児を産ませる方法であった。

 飯塚教授は、女児の産み分けの成功率は95%以上と発表した。さらにこの方法によって産み分けられた赤ちゃんが、すでに数十例に達していることを明らかにした。

 この方法は、もともと血友病などの伴性劣性遺伝病の妊娠を避けるために考案された方法であるが、女の子を欲しがる夫婦にも応用したのである。しかしこの男女産み分けは生命倫理の面での議論を呼んだ。生命倫理上の議論が煮詰まらないまま、臨床応用が先行したことに懸念が生じたのである。そのため何らかの歯止めが必要となり、日本産科婦人科学会の倫理委員会は「伴性劣性遺伝性疾患を回避する場合にのみ行われるべき」とした。

 どこまでが親のエゴで、どこまでが医療なのか。いずれにしても、学会は一般人を対象とした産み分けには応用しないことにした。かつては家の世襲制度から男の子を欲しがる相談が多かったが、現在では8割が女の子を希望している。男女産み分けは、生殖技術の人間への応用に歯止めをかけるため、現在でも全面的な自粛が続いている。