新幹線公害訴訟和解

【新幹線公害訴訟和解】昭和61年(1986年)

 東京・大阪間を日帰り圏にした東海道新幹線は、国民に大きな利便性を与えたが、沿線住民には計り知れない苦しみをもたらした。昭和49年3月3日、東海道新幹線の沿線に住む名古屋市内の住民576人が国鉄を相手取って、新幹線列車の走行に伴う騒音と振動の差し止めと慰謝料を求めて名古屋地裁に提訴した。

 住民たちは、新幹線の高架橋の下で騒音と振動に悩まされていた。時速200キロ以上のスピードで重量1000トンの新幹線が、1日上下合わせて226本も高架橋を通過し、80ホンを超える騒音や振動を発生させていた。そのため名古屋市の沿線住民は、精神的被害、睡眠妨害、病気療養妨害を理由に訴えたのである。

 昭和55年9月11日、名古屋地裁は被害の存在を認め、慰謝料の支払いを国鉄に命じた。しかし減速の請求については、新幹線の公共性を理由に住民の被害が受忍限度を超えるものではないとして棄却した。この判決に住民、国鉄ともに控訴したが、昭和60年4月12日の名古屋高裁の判決でも結論は同じであった。さらに双方が最高裁へ上告したが、61年4月28日、国鉄と住民の直接交渉によって和解が成立した。

 和解の内容は、<1>新幹線の騒音を75ホン未満にし、振動の軽減を図る<2>国鉄は住民に4億8000万円の慰謝料(原告1人当たり50万〜100万円)を支払う<3>移転補償や家屋に対する防音・防振工事を誠実に実施する、であった。これを受けて原告側が訴えを取り下げ、提訴から12年ぶりに決着した。公共性が「錦の御旗」にならなかったことは、住民側の勝利といえる。

 この住民提訴がなされた翌年、新幹線公害訴訟をテーマにしたサスペンス小説「動脈列島」(清水一行著)が出版され、日本推理作家協会賞を受賞して映画化された。「動脈列島」は、新幹線による振動と騒音を改善しなければ新幹線を爆破するとのストーリーで、新幹線沿線に住む老婦人が新幹線公害により死亡し、怒った主治医(近藤正臣)と恋人の看護師(関根恵子)がダイナマイトで新幹線を破壊しようとする内容だった。