予防接種のミス

【予防接種のミス】昭和62年(1987年)

 昭和62年11月27日、東京・品川の区立御殿山小学校(児童数約400人)で、インフルエンザの予防接種が行われた。予防接種は品川保健所からの委託で、同区医師会の3人の医師が希望者155人にインフルエンザの予防接種を実施した。その際、1人の開業医(47)が注射針を交換しないまま、20人の児童に次々と注射していたことが分かった。

 注射針を交換するのは、B型肝炎などの感染症予防のためで、予防接種では注射針の交換が義務付けられていた。予防接種は校医と開業医で行われたが、1人の開業医は注射針をアルコール綿でふいただけで6年生20人に接種していた。

 帰宅した児童から話を聞いた父母らが、学校に抗議して事件が表面化したのである。保健所と医師会は事態を重視し、父母を集めて緊急の説明会を開き謝罪した。さらに児童らの血液検査を約束して実施した。

 血液検査の項目はB型肝炎キャリアかどうかを調べるためのHBs抗原抗体検査、さらにはエイズ検査にまで広げることになった。幸いなことに全員がマイナスだった。

 昭和33年に改正された予防接種法では、注射針は被接種者ごとに取り換えなければならないとされている。今回ミスを犯した医師は、医師歴20年のベテランだったが「予防接種は今回が初めてだったので、針の交換を忘れてしまった」と謝罪した。注射針の交換は予防接種だけではなく、日常診療でも常識である。忘れてしまったというよりも、注射針を交換するという基本が念頭になかったのではないだろうか。