ピーターパン症候群

【ピーターパン症候群】昭和60年(1985年)

 昭和60年当時、×××症候群(シンドローム)という言葉が流行した。ピーターパン症候群もその1つで、大人社会にいつまでも適応できない少年のような大人を意味していた。年齢は大人でも、責任ある行動を嫌う男性を、ピーターパン症候群と表現した。

 大人社会への参加を拒否する男性を、「子供たちだけの幻想的な世界にさまよう、永遠の少年ピーターパン」になぞらえ、社会という荒波を前に、学生のままでいたい若者の願望とされていた。ピーターパン症候群は、親の過保護が原因とされたが、親たちはそれに気付かず頭を抱えていた。子供の自立性は大切であるが、それを理解できない親が多かった。

 ピーターパンは、イギリスの劇作家J.M.バリーが書いた空想上の主人公で、大人のいない「ないない島(ネバーランド)」に住む永遠の少年の物語である。「ピーターパン・シンドローム」とは、アメリカの心理学者ダン・カイリーの著書から生まれた造語で、昭和59年の流行語となった。

 ピーターパン症候群は男性の場合であるが、女性には「シンデレラ・コンプレックス」がある。シンデレラ・コンプレックスとは、自立する自信のない女性が、自分の人生を一変させてくれる王子様の出現を待望し、その男性に頼って心の安定を保ちたいという心理によるものである。大人の社会で責任を果たすことへの恐怖、男性に救われたいと願う依存心が根底にある。「男性に支配されるのはイヤ」と言いながら、心のどこかで「男性に依存したほうがラク」と思っているのである。女性の心の中には、いつも王子様の登場を期待する気持ちがあり、キャリアウーマンでも、そのような心理になるらしい。男性依存の隠れた気持ちで、結婚など眼中にないと思われていた専門職の女性が、突然結婚するのもこの心理によるとしている。

 また「もっと自分に合った甘い生活があるはず」と思うことを「青い鳥症候群」と呼んだ。青い鳥症候群の根底には、現実と自分の思い描く状況とに落差があった。

 このような言葉の流行は、社会に夢を描ける時代だったからで、夢があるだけ幸せである。殺伐とした現在では、このような夢を持てない若者が増えている。