約束のホームラン

【約束のホームラン】昭和53年 (1978年)

 米国シカゴ郊外の自宅のベッドで野球をテレビ観戦していた少年(12)が突然奈落の底に落とされた。シカゴ・カブスのスター選手ボビー・マーサー右翼手は、病気の少年を励ますため、「対ピッツバーク・パイレーツ戦で君のためにホームランを打つよ」と電話で約束をしていた。少年はわくわくしながらテレビにかじりつき、マーサー選手が約束通りホームランを打った瞬間、大喜びだった。だが、次の瞬間、絶望のどん底に落とされた。

 アナウンサーが「このホームランは骨のがんで余命わずかな少年との約束を果たしたものです」と球団役員から手渡されたメモを読んだのである。少年は初めて自分の病名を知り、病状は急速に悪化した。自分の病気ががんだと知った少年は、昭和52年(1977年)8月22日、病院で息を引き取った。

 約束のホームランは、世界的偉人ともいえるベーブ・ルースにもある。ある試合でベーブは彼の大ファンである小児まひの少年ジョニーにサインボールをあげ、次の試合で2本のホームランを打つと約束、その通り見事にホームランをかっ飛ばした。ラジオを聞いていたジョニーは思わず立ち上がって喜んだ。昭和26年のワールドシリーズでの話である。

 昭和35年、吐血しながらも最後の力をふり絞って1試合に3本のホームランを放ち、グラウンドを去るベーブルースに1人の青年が駆け寄った。それは、あの日のベーブが約束のホームランをプレゼントした少年、ジョニーの成長した姿だった。