医薬品副作用被害救済制度

医薬品副作用被害救済制度 昭和55年(1980年) 

 薬剤は身体によいと思って飲むものである。また薬剤は医療や健康の維持に欠かせず、これまで国民の生命や健康に大きな貢献をしてきた。薬剤の安全性は一定の基準のもとで厳しく検査されてきたが、薬剤は人体にとって異物であるため、必ずしも安全とは限らない。薬剤は効性と副作用の両面を持ち、医師、薬剤師、看護師などがたとえ万全の注意を払っても、副作用を予見することは不可能である。現在の医学の水準では、薬剤の副作用を完全に防止することはできない。医薬品を適正に使用しても、副作用による被害を受けることは避けられないのである。

 薬剤による健康被害を受けた場合、裁判で因果関係や製薬会社・医師などの責任を立証するには、多大な労力と時間を費やす。このことから医薬品により深刻な副作用が出た場合、被害者を救済する制度が必要となった。医薬品副作用被害救済制度は、昭和30〜40年代にサリドマイド、スモン、クロロキンなどの薬害が連続して大きな社会問題になったことから制度化された。昭和55年5月1日以降に使用された医薬品によって副作用が生じた場合、被害者の救済を公的に、しかも迅速に行う目的から設立された。

 医薬品副作用被害救済制度の対象になるのは病院、診療所、薬局で投薬された薬剤で、「適正に使用されたのに、副作用による健康被害が生じた場合」である。また薬剤であれば、薬局で購入した風邪薬や栄養剤などの大衆薬も含まれ、適正な使用とは、医薬品の容器あるいは添付文書に記載されている用法、用量および使用上の注意に従って使用した場合である。

 つまり、使用上の注意に沿って正しく使用したこと、処方した医師、販売した薬剤師、服用した本人にも過失がないことが条件となる。もちろん個別の事例については、使用時の医学や薬学の学問的水準に照らし合わせて総合的に判断される。

 救済される副作用は軽度のものは対象外で、入院が必要となる重篤な場合や、日常生活が著しく制限されるもので、もちろん死亡も含まれる。具体的には、抗生剤による中毒性表皮壊死症、抗生剤によるショック死、副腎皮質ホルモン剤による大腿骨頭壊死、不穏状態のため使用した精神神経薬剤により悪性症候群を生じた場合などである。給付されるのは、医療費、医療手当、障害年金、障害児養育年金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料である。

 この救済制度は、厚生大臣の認可法人である医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(医薬品機構)によって運営され、医薬品機構は製薬企業の社会的責任に基づき、製薬企業からの拠出金を財源にしている。なお、製品自体の欠陥や製品説明書に不備があって健康被害が現れた場合は、製造物責任法(PL法)の範疇となるが、これまでPL法が適応された例はない。また給付の請求は、本人や家族が行うが、医師や薬剤師は被害者に本制度を紹介し、必要な書類への記載などの協力が求められる。

 医薬品機構に提出された請求書や診断書などを基に、厚生労働省の中央薬事審議会の副作用被害判定部会が薬剤の副作用かどうかを審議して、救済給付を決定する。ただし抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬、血液製剤(血漿分画製剤を除く)、動物用医薬品、製造専用医薬品、体外診断用医薬品などは、副作用の発現をある程度覚悟すべき薬剤なので対象外である。

 しかし平成16年4月、医薬品機構が「独立法人・医薬品医療機器総合機構」と名称を変えてから、それまで認められていなかった生物由来の医薬品や医療機器による感染が認められるようになった。任意の予防接種を受けた場合は救済されるが、法定予防接種は対象外である。さらに救命のため通常の使用量より多量を投与した場合にも対象外で、不適切な薬剤使用によって生じた副作用も除外される。

 この制度は被害者救済が目的なので、医薬品の製造業者や販売業者の責任が明らかな場合は対象にならない。例えば、医薬品に細菌やウイルスなどが混入したことによる感染、変質による医薬品、異物混入による汚染などである。またC型肝炎の感染、ヒト乾燥硬膜使用によるヤコブ病なども対象外である。なお平成5年度から血液製剤の投与を受けてエイズに感染した患者、2次、3次感染者が対象となった。

 わが国で使われている医薬品は5万種類以上で、予期せぬ副作用がでても不思議ではない。この制度が発足した当初は「薬害を少しでも減らす」という発想は乏しく、補償制度の意味合いが強かった。しかし重要なことは、副作用被害を受けた患者、あるいは関与した医師が、この制度を知らないことである。

 この制度は現在も継続されているが、利用件数は少なく、企業からの拠出金が常に余っている。もっとも昭和の時代までは支給件数が年間100件以下であったが、広報活動によって平成15年は619件となっている。副作用の内容は、薬剤によるショックや悪性高熱などの全身障害(122件)、薬疹などの皮膚症状(121件)が主である。

 申請には病院の医療費・医療手当請求書ならびに診断書、医薬品を処方した医師の投薬証明書などの書類を提出しなければならない。医薬品医療機器総合機構は相談の窓口を設置し、医薬品の副作用の相談に応じてパンフレットや申請書類などの送付を行っているので電話(03-3506-9411)で照会するのがよい。