六甲のおいしい水

【六甲のおいしい水】昭和58年 (1983年)

 昭和58年8月、「バーモントカレー」で有名なハウス食品が「六甲のおいしい水」を家庭用ミネラルウオーターとして初めて発売した。天然水市場を開拓した「六甲のおいしい水」はミクロフィルターで無菌化した天然水を無菌パックしたもので、値段は1リットル200円であった。

 中東アジアから輸入されるガソリンより高い値段であったが、健康志向や自然食ブームに乗って売り上げを伸ばしていた。「六甲のおいしい水」の成功がきっかけになり、清酒や焼酎のブランド品のように「丹沢山系の銘水」「秩父源流水」など、日本各地で次々に新しい天然水が登場された。日本では「水と空気はタダ」とされてきたが、ガソリンよりも高い水を飲むようになった。

 ミネラルウオーターには水道水とは違い、土中に含まれるカルシウムやマグネシウムなど(ミネラル)が含まれている。雨や雪が地中にしみこんで、長い時間をかけて地下水やわき水となるが、この間に汚れが取れミネラルが含まれることになる。

 ミネラルウオーターには2種類あって、ミネラルが多く含まれる天然水を硬水、少ないものを軟水と呼んでいる。日本は軟水が多く、味はまろやかである。欧米とは違い日本の水道水の味は悪くないので、それまでミネラルウオーターの消費量は少なかった。消費量が伸びたのはウイスキーの水割りの流行であった。

 市販されている国産のミネラルウオーターは、「六甲のおいしい水」「サントリー天然水(旧南アルプスの天然水)」「森の水だより」(日本コカ・コーラ)の銘柄がトップを競っていた。その他、国内では350社が、約500銘柄を製造していた。

 なお国内のミネラルウオーターの50%を山梨県が占めている。これは、富士山麓と南アルプスの豊な森林により、地下水が豊富で、また首都圏に近いからである。

 輸入品では、「エビアン」「ヴォルヴィック」「ヴィッテル」が知られている。ミネラルウオーター市場は、平成13年には1100億円に達し、今後2000億円市場になるとされている。平成16年の日本人1人当たりのミネラルウオーターの年間消費量は12.7リットルであるが、イタリアやフランスは140リットルと10倍以上である。

 ミネラルウオーターは、おいしい水と盛んに宣伝されるが、不祥事も少なくない。小田原市の水道局が「旅名水」の名前で販売していたペットボトルに、食品衛生法の基準値を超える細菌が含まれ、販売中止となった。調布市の自然食品販売会社が売り出した「神泉水」には、水道水の100倍以上の雑菌が検出され、さらには海洋深層水を使ったミネラルウオーターから基準値を超える水銀が検出されるケースもあった。外国産のミネラルウオーターから、カビが検出されることも何度か報告されている。また、身体に良いとか効能を掲げる銘柄もあるが、すぐに消え去ってしまうことが多い。