アメーバ赤痢

【アメーバ赤痢】昭和50年 (1975年)

 戦前までアメーバ赤痢は珍しい疾患ではなく、国民の7%が感染していた。しかし戦後に下水道が整備され、栄養状態が改善し、赤痢アメーバは激減した。アメーバ赤痢は赤痢の亜系として法定伝染病に含まれていたことから、この統計は正しいものと考えられる。

 アメーバ赤痢の患者数は年間数人まで減少したが、昭和50年ごろから患者数が増加し、年間およそ100人となり、死亡例も見られるようになった。海外の流行地からの持ち帰り、福祉施設での集団感染もあるが、男性の同性愛者が増えたことも増加の原因となった。アメーバ赤痢の感染は、糞便の経口感染で、同性愛者はアナルセックスで感染した。つまりアメーバ赤痢は性感染症(STD)の1つになっている。

 アメーバ赤痢は経口感染であるが、赤痢アメーバは大きさ15〜30ミクロンの原虫である。赤痢アメーバはアメーバ状に動き回る「栄養型」の時期と、球状の「嚢子(のうし)」の時期があって、栄養型は人体を活発に動き回るが感染性はない。感染するのは便に放出された嚢子で、嚢子が口から入ると小腸で栄養型のアメーバとなり分裂を繰り返す。赤痢アメーバは組織融解酵素を出して大腸を消化するので、大腸に潰瘍をつくり大腸穿孔(せんこう)に至ることがある。症状は下痢、粘血便、しぶり腹、排便時の下腹部痛などで、典型例ではイチゴゼリー状の粘血便になる。

 赤痢アメーバが門脈から肝に達すると肝膿瘍となる。肝膿瘍は発熱、右季肋部痛、肝腫大、嘔気、体重減少、寝汗、全身倦怠などを伴い、アメーバ赤痢の20〜40%が肝膿瘍を合併する。アメーバ赤痢の治療は殺アメーバ剤であるメトロニダゾールで、テトラサイクリンなどの併用が勧められている。肝膿瘍が大きくなれば肝ドレナージが必要となる。

 赤痢アメーバは忘れがちな疾患であるが、臨床の場では意外に多くみられる。赤痢アメーバは世界各地に分布していて、世界では約5億人が感染し、大腸炎や肝膿瘍で毎年4万人から11万人が死亡している。