鉗子置き忘れ事件

【鉗子置き忘れ事件】昭和48年(1973年)

 昭和48年4月27日、東京都町田市の町田中央病院で患者Aさん(69)が尿毒症で亡くなった。Aさんは胃潰瘍の持病があり、4月14日に吐血したため町田中央病院に入院、輸血を受けた。しかし吐血を繰り返したため、17日に胃潰瘍の手術を受け、手術は無事に終わったが、術後に尿が出ない尿毒症の症状が出現した。そのため血液透析が必要となり、20日に北里大病院に転院となった。しかし症状は改善しないまま、Aさんは尿毒症で27日に亡くなった。Aさんの遺体は29日、相模原の市営火葬場に運ばれ火葬にされたが、遺骨と一緒に長さ15センチの鉗子が出てきたのである。この事件は事事件にはならず、病院が300万円の示談金を遺族に払うことで決着がついた。

 鉗子置き忘れ事件は、町田中央病院以外でも起きている。昭和45年2月11日、北海道釧路市の釧路市立総合病院で、胃の手術を受けた女性患者(52)の体内に鉗子を置き忘れ、患者が死亡。同病院は同年4月にも鉗子の置き忘れにより患者を死亡させていた。昭和45年5月19日、愛知県新城市の今泉医院で、開腹手術を受けた男性患者(60)が鉗子の置き忘れで半月後に死亡している。

 手術に用いる鉗子類は、術後に本数を数えて確認することになっている。この常識的作業が抜けてしまい、事故が起きたのだった。このほか患者の腹部に止血用ガーゼを置き忘れる医療ミスも頻発している。ガーゼはレントゲンに写らないため、置き忘れても気づかない難点があった。この町田中央病院の鉗子置き忘れ事件の教訓として、手術後にレントゲン写真を撮ることが慣例となった。そのため鉗子を置き忘れても手術直後に発見され、事件として表面化しなくなった。それでも平成6年5月21日、大阪府池田の市立池田病院で鉗子置き忘れが起きている。

 このほか特別な例として、15年間鉗子を腹の中に入れたまま平気だった患者がいる。それは昭和62年6月、甲府市にある国立甲府病院で、15年前に胃潰瘍の手術を受けた甲府市内の女性(54)の腹部に、はさみのような手術器具が残されていた。この女性は子宮筋腫のため手術が必要とされ、甲府市内の県立中央病院の産婦人科を訪ね、腹部のレントゲン検査を受け、腹部の下方左側に長さ約14センチの止血鉗子が写っていたのである。異物が発見された女性は、これまで腹痛や違和感を訴えたことはなかった。取り出された鉗子は黒くさびていた。女性のカルテは廃棄されていて、正確なことは分からなかったが、病院側は女性に陳謝した。