超音波検査

超音波検査 昭和50年(1975年)

 画像診断は医療の中で大きな比重を占め、画像診断の進歩は患者に苦痛を与えず、病変をより正確で安全に診断できる道をもたらした。CT(コンピューター断層撮影法)とほぼ時を同じくして、昭和50年頃から超音波検査が普及した。

 超音波とは「ヒトの聞くことのできる音(20ヘルツ〜2万ヘルツ)を超えた高周波数の音」のことである。多くの哺乳類はヒトが聞こえない高周波数の音を聞くことができ、イヌは8万ヘルツ、コウモリは10万ヘルツ、イルカは17万ヘルツまで聞こえ、この超音波によって情報のやりとりしている。

 ヒトが耳で聞くことのできる音は四方に広がるが、超音波は直線状に進みモノに当たると反射する性質がある。そのため超音波は海底の地形検査や魚群探知機として、第2次世界大戦では潜水艦を探すソナーとして応用されていた。世界地図を見ると、海の深さが等深線で書かれているが、これは超音波によって測定されたものである。

 この超音波の特性を人体に応用したのが超音波検査である。皮膚にゼリーを塗り、超音波送受診器を皮膚に当て、超音波を発射して各臓器から反射してくる反射波の違いをとらえ、画像化する方法である。身体の90%以上が水分なので各臓器からの反射波の違いをコンピューターで処理して臓器の形を描くことができる。

 超音波は骨や石などの高密度の組織では強く反射するため、骨の裏に隠れた臓器の観察は困難である。また超音波は空気中で散乱するので、空気を含んだ肺や腸の観察は難しかった。しかし患者にとっては無痛で、X線のような被曝がなく、安全の面で大きな利点があった。

 超音波検査が最初に応用されたのは胆石の診断だった。それまで胆石の診断には造影剤を飲む、あるいは造影剤を注射して胆嚢を造影する方法であったが、超音波検査ははるかに副作用が少なく診断の精度も高かった。

 超音波は改良が加えられて精度が増し、肝臓、膵臓、腎臓、婦人科のがんの診断に応用できるようになった。機材の持ち運びが容易で、ベッドサイドや外来で気軽に検査することができ、緊急時にも対応できた。超音波検査にはX線のような被曝がないので、産婦人科での胎児の観察にも大きな貢献を果たした。胎児の大きさ、胎児や胎盤の位置の異常、胎児の心拍のモニター、出産前の男女の性別判定が可能になった。さらに超音波検査は進歩し、解像度が増し、臓器の形状を正確に映し出せるようになった。難しかった腸の観察も、現在では炎症の程度を観察することができ、虫垂炎の診断に応用されている。

 超音波検査は心臓疾患にも大きな貢献を果たしている。リアルタイムで心臓の動きを動画として観察できるようになり、心臓超音波検査は循環器内科にとって必須となった。医師は超音波を心臓に当て、心筋の厚さや心臓の大きさなどの形態、心臓の収縮からポンプとしての心機能を検査できるようになった。

 超音波にはドプラー効果という特性があり、近づいてくる救急車のサイレンの音と遠ざかるサイレンの音が違って聞こえるように、対象物のスピードによって跳ね返る周波数が違ってくる。1842年にオーストリアの物理学者 C・J・ドプラーがドプラー効果を発見し、超音波検査に応用されている。

 血管には赤血球などの有形成分が流れているが、血流の方向や速度をドプラー効果で測定できるようになった。心臓内部の血流の方向と速度を測定し、血液の逆流から心臓弁膜症の程度が分かるようになった。血流の方向や速度をカラー画像で表示するカラードプラー法が開発され、応用されている。

 心臓専門医の診療には、聴診器、心電図が不可欠だったが、現在では心エコーが必須の医療機器となっている。心臓の動きを観測し、心臓の障害部位が診断でき、心筋梗塞の診断や部位を知ることも可能になった。

 最近では血管内超音波法が確立している。これは心臓カテーテルの先端に超音波装置を付け、心臓の栄養血管である冠動脈にカテーテルを挿入して、狭窄部、血栓などの血管壁の病変や血流量を知る方法である。冠動脈造影法は血管内腔のみであるが、血管内超音波法は動脈壁全体の病変を知ることができる。

 超音波検査装置は、昭和50年頃から日本で急速に普及し、日本企業の超音波検査装置は米国で60%、欧州で70%、アジアでほぼ100%のシェアを誇っている。平成の時代になってMRI(磁気共鳴画像法)が普及してきたが、超音波検査やCT検査ほどのインパクトはない。MRIは電磁波によって身体の内部を画像化する検査で、解像度が高いため超音波やCTでとらえられなかった病変が分かるようになった。しかし診療上の有用性を考えた場合、超音波検査やCT検査は不可欠の検査であるが、MRIは必須ではない。MRIは脊椎の病変には有用だが、費用対効果では超音波やCT検査の方が勝っている。このように超音波検査やCT検査の登場は、医学上画期的なことで、病気の診断に飛躍的向上をもたらした。