チマブーエ

 チマブーエ(1240年 - 1302年、62歳没)はイタリア・フィレンツェの画家である。ビザンチン絵画の形式を打ち破った画家のひとりで、伝統的な主題をより現実的に描いた。ジョット以前のイタリアの最大の画家で、ジョットはチマブーエの弟子とされている。西洋絵画が中世から近代へと歩み始める初期の画家として重要である。
 中世の次に位置するゴシック時代は12世紀に始まった。ゴシック芸術を代表する建築は、今も「フランスなど各地に残る壮大な大聖堂」といえば分かりやすいであろう。一方、絵画は建築より遅れ、13世紀後半のイタリアにその萌芽がみられる。

 チマブーエは13世紀末のイタリアで活躍したゴシック絵画を代表する画家である。フィレンツェで生まれ、ローマ、アッシジでも活躍している。1550年に初版されたイタリアの優れた芸術家の生涯を扱う「芸術家列伝」の最初に記されていて、イタリアの詩人ダンテの叙事詩「神曲」にも絵画の覇者と謳われている。
 チマブーエの絵画は、金地の背景、正面性・左右対称性の構成、人物の図式的かつ平面的な配置など、古代ギリシア様式を基礎にしたビザンティン美術(東ローマ帝国)の様式が残っている。しかし中世の絵画に比べると、人物の自然な表情、聖母の台座や衣服の表現などは、ルネサンス絵画への道を歩み出していることがわかる。

 チマブーエはジョットの師とされ、ゴシックとルネサンスの橋渡しの位置にある。西洋絵画史の最初のページを飾る画家で、イタリア絵画の創始者とされている。


壮厳の聖母(マエスタ)
1279-1280年頃
385×223 | テンペラ 板 |
フィレンツェ ウフィツィ美術館

 13世紀の画家チマブーエの代表作。玉座の聖母子像をテーマにしたこの作品は、フィレンツェのサンタ・トリニタ聖堂の主祭壇画として制作された。13世紀のイタリアでは聖母崇拝が高まり、しばしば同テーマが描かれてきたが、なかでもこの作品は巨大で保存状態が良い。慈愛に満ちた表情の聖母マリア、祝福のポーズを取る幼子キリスト、周りに8人の天使が配され、画面下部には4人の預言者が描かれている。左右対称性の構成や画一的表情はビザンティン様式であるが、顔や衣服の立体性、天使の羽のグラデーションはチマブーエ独自の技法である。

 ま本作より数年前に描かれたチマブーエの同名の作品で、かつてサン・フランチェスコ聖堂に旧蔵され、現在はルーヴル美術館に所蔵されている「壮厳の聖母」が下図である。


十字架のキリスト

1272年以前
336×267 | テンペラ 板 |

フィレンツェ サンタ・クローチェ聖堂

 チマブーエ初期のキリストの磔刑をテーマにしたこの作品は、1272年以前に描かれたとされている。ローマ兵士に捕らえられ、十字架 へ磔にされるキリストの姿で、当時としては類をみない程、精神性を含んだ表現がなされている。また左右には聖母マリアと洗礼者聖ヨハネが描かれている。

 1966年のフィレンツェの街を襲った大洪水により色彩が大きく剥落しだが(下図)、その後長期間をかけて修復された。フィレンツェのサンタ・クローチェ聖堂に所 蔵されている。