うそつき食品

うそつき食品 昭和42年(1967年)

 現在では原料や材料を偽って食品を売ることは固く禁じられている。ところが昭和41年頃は「うそつき食品」が堂々と店頭に並んでいた。豚肉と称してウサギの肉が売られ、鯨肉なのに牛肉のラベルを張った缶詰、馬肉入りのコンビーフなどが堂々と高い値段で売られていた。

 また人工甘味料の入ったジュースを天然ジュースと偽り、乳分が少ないのにコーヒー牛乳と表示し、サッカリンで味づけしているのに全糖と表示された缶詰などが販売されていた。その当時、販売されていた100種類のジュースを検査した結果、表示通り100%天然ジュースだったのは3種類だけだったと記録されている。

 その他、クリの入っていないクリようかん、バターの入っていないバタービスケット、ワサビの入っていない粉ワサビ…、このように数え切れないほどのまがい物が作られていた。さらにイワシやサバで作られた花ガツオ、トウモロコシの粉を用いた片栗粉、天然醸造酢と称して化学薬品を薄めた食品などが店頭に並んでいた。

 また植物油や大豆タンパクを混ぜたチーズまでも売られていた。カジキマグロを食べた者が下痢を起こし、調べてみたら油の質の悪いバラムツだった。

 うそつき食品への消費者の怒りや苦情が相次ぎ、消費者を惑わすうそつき食品がマスコミで大きく取り上げられた。当時の佐藤栄作首相がうそつき食品を取り締まるために経済企画庁に対策を講じさせたほどである。

 多くのまがい物が出回ったため、商品の品質についての消費者の目が厳しくなった。さらに食肉の変色防止のため、ひき肉にニコチン酸を添加し新鮮肉と見せかける不正事件が発覚し、消費者から批判が集中した。うそつき食品が横行するなかポッカレモン事件が起きた。

 昭和30年代は生活が豊かになり、欧米の生活を思わせるレモンがブームになっていたが、レモンは輸入が制限されていたため、庶民の手に届かないほど高価であった。大卒初任給が1万円以下の時代にレモン1個が200円で、カクテルにレモンを入れて飲むことが、高級な生活をイメージさせていた。

 このような時代に、ビン詰めのポッカレモンが発売され爆発的に売れた。「ポッカといえばレモン」と言うほどで、どの家庭にもポッカレモンが置いてあった。ポッカレモンは身近な存在であったが、このポッカレモンが取り締まりを受けたのである。

 昭和42年5月11日、不当表示を行ったとしてポッカレモンに排除命令が出された。ポッカレモンは合成ジュースを天然ジュースと偽って販売していたのである。この事件は、公正取引委員会が無果汁飲料の表示基準を決めるきっかけをつくった。

 ポッカレモンはこの事件で売り上げを激減させたが、昭和46年に100%レモン果汁による「ポッカ100レモン」を発売して復活を遂げた。なおレモンに関し、公正取引委員会が摘発したのはポッカレモンだけでなく、森永製菓、東食、明治屋、ヤンズ通商、サントリーの5社も含まれていた。

 うそつき食品と似たものにコピー食品がある。コピー食品とは、本物に似せて作られた模造食品を意味する言葉である。コピー食品の元祖は、江戸時代からの「がんもどき」である。「がんもどき」は漢字で「雁擬き」と書くように、がん(雁)の肉の味に似せて作られた油揚げが「がんもどき」である。コピー食品は古くから日本にあって、これらは寺院での精進料理の中に見ることができた。

 昭和40年ころから、工場で作られたコピー食品が次々と出回るようになった。また最初はコピー食品であっても、バターにおけるマーガリンのように、代用食品として一定の地位を築き上げるものもあった。

 コピー食品で注意が必要なのは本物と偽物の区別がつかないことで、たとえば天然のイクラはサケ・マスの卵であるが、コピー食品のイクラは天然色素で着色したサラダ油と海藻エキスからできている。サラダオイルを乳酸カルシウム液に落とすと、化学反応によりイクラそっくりの形になる。これに食品添加物で味をづけたのがイクラのコピー食品である。

 イクラのコピー食品は本物に比べ皮がやや硬いのが特徴であるが、外観から見分けることは難しい。見分けるためにはお湯を注いでみれば、本物のイクラはタンパク質が多いので白濁するが、コピー食品はサラダオイルが主成分のため白濁はしない。

 皮肉なことに、本物のイクラは高コレステロール食品であるが、コピー食品はヘルシーな健康食品である。かつてはイクラのコピー食品が店頭に数多く出回っていたが、最近は本物のイクラの値段が安くなったためコピー食品は姿を消している。イクラのコピー食品は芸術品、あるいはハイテク工業製品といえる。

 次に世界三大珍味のひとつであるキャビアを挙げることができる。本物のキャビアはチョウザメの卵であるが、キャビアのコピー食品はランプフィッシュの卵を着色剤で黒く着色したもので、世界的な規模で流通している。缶の裏には「キャビア(ランプフィッシュ卵)」と書かれている。

 本物のキャビアは高価な食品であるが、安い値段のキャビアはほとんどがコピー食品である。ちなみに本物のキャビアは「純正キャビア」と書かれている。ニセモノは黒く着色されているので、パンなどに塗るとうっすらと黒い色がパンにつくことで判別することができる。

 チューブ入りわさびの原材料名をみると、「西洋わさび」と書かれているが、西洋わさびは「わさび大根」のことである。もちろん西洋人はわさびを食べないから、西洋ではわさびを栽培していない。西洋わさびはホース・ラディッシュという大根のことで、この大根に合成からし粉、でんぷん、着色料、ガムを混ぜて作られている。「本わさび使用」などと書かれているが、これは本物のわさびを数%混ぜたもので、本わさびだけを使用しているわけではない。

 シメジの名前で「ヒラタケ」という全く別種のキノコが売られている。また「ブナシメジ」が「本しめじ」の名前で売られているが、本しめじはシメジではないのでややこしい。その他、スケソウダラを加工したイカ、シシャモを加工したカズノコ、カニの足に似せたかまぼこ、牛の横隔膜を固めて加工したステーキなどがある。

 コピー食品を日本人が見分けられるかどうかの実験では。区別は困難とする結果が示されている。コピー食品が作られた背景には、本物は量が少なく値段が高いからである。そのため値段によって、コピー食品と本物を区別するのが最も確かな方法である。日本人の味覚がいかに危ういかが分かる。