遺体丸焼き販売事件

【遺体丸焼き販売事件】昭和31年(1956年)

 昭和31年9月12日、秋田県十和田町で死産児を焼いて粉末状にしたものを強壮剤として販売していた男性(69)が花巻署員に逮捕された。

 この男性は、最初は犬の肉を販売していたが、売れ残った犬を丸焼きにして、その粉末を強壮剤として売っていた。それを死産児に変えたのは、犬よりは人間の方が強壮剤として効果が大きいだろうと考えたからである。

 当時はまだ土葬の習慣が残っていた。男性は死産した赤ん坊の埋葬を頼まれると、赤ん坊の内臓を取り除き、炭火で丸焼きにして粉末状にして売っていた。この強壮剤は1袋10円で売られ1300円の売り上げだった。強壮剤としてその中身を人骨と宣伝していたとは思えないが、精力剤として粉末は好評だった。

 男性は元々裕福な家庭生活を送っていたが、愛人を囲うようになって田畑を手放し、生活費に困り犯行におよんだ。この事件はまだ医学が進歩していない時代に起きたが、その当時は人骨を特効薬と信じていた人たちがいた。

 医学、薬学が進歩した昭和55年にも同様の事件が起きている。昭和55年6月4日、岡山県金光町で72歳の男性が逮捕された。男性は深夜、自転車で近くの火葬場に行き、無断で人骨を持ち帰り、粉末状に砕き、それをオブラートに包み、あるいはカプセルに入れ販売していた。人骨が肝臓病や万病の特効薬と宣伝して売買していた。

 男性は過去にも同様の人骨販売で3回逮捕され、刑務所を出所したばかりだった。男性は薬事法違反で逮捕された。人骨を売る方も売る方であるが、それを買う方も買う方である。

 現在ではこのようなことは起こり得ないと思うが、昭和39年の厚生省の国民健康調査では、病気になった場合、医師にかかるのは48%、売薬が40%、はり、きゅうが3.3%、祈とう師が0.8%であった。当時は呪術療法がまだ生きていたのである。