鼻クソ発言

【鼻クソ発言】昭和35年(1960年)

 昭和35年12月の日本癌学会で、牛山篤夫博士ががん治療薬「SIC」の効果を発表する予定だった。SICは特殊な細菌から作られたがん治療薬である。これについて癌学会会長・田崎勇三はSICを「科学的根拠のない鼻クソみたいなもの」と発言し、牛山博士の学会発表を差し止めた。このため学会ばかりでなく一般の人たちまで鼻クソ論争が広まり、マスコミは興味本位で内容を報道した。

 田崎はSICの学会発表を中止させた理由について、学問的に価値がないこと、学会に発表した場合、それがSICの宣伝に利用される可能性があること、鼻クソみたいなものをがんの薬として発表させては癌学会の威厳にかかわると説明した。

 この鼻クソ発言に牛山博士は公開討論会を要求したが、田崎は混乱を招くだけだとしてこれを拒否。SICはその後、国会でも問題になり、東京慈恵会医科大学が中心になってSIC研究会をつくり、その臨床効果などが調べられたが、がんの特効薬としてのデータを示す前に自然消滅した。

 牛山博士が細菌から作ったSICは、がんの特効薬として世間を騒がせたが、結果的にはがんの治療薬としては効果を示せなかった。薬剤にはプラシーボ効果があり、暗示による効果だったのではないだろうか。「きっと良くなる。必ず良くなる」といわれると、それを信じた人たちに多少の効果をもたらすのである。