ベン・ケーシー

【ベン・ケーシー】昭和37年(1962年)

 若き脳神経外科医の活躍を描くアメリカABCテレビの連続ドラマ「ベン・ケーシー」が日本でも放映され爆発的人気となった。昭和37年11月からTBSで放送されたベン・ケーシーは、たちまちのうちに熱狂的なファンをつかみ、昭和38年1月11日には視聴率50.8%を記録した。

 ドラマはロサンゼルスのカウンティ病院に勤務する脳神経外科医ベン・ケーシーの物語で、チーフレジデント(医局長)のベン・ケーシーは正義感にあふれ妥協を許さない熱血感であった。医師でありながら決して科学主義者ではなく、むしろヒューマニスト、ロマンティストだった。また謙虚でありながら、患者をしかりつける強さを持ち、インテリなのに女性を口説けない不器用さがあった。

 ベン・ケーシーの誠実さと人間味が、視聴者の好感を得たのである。無愛想でぶっきらぼうであるが、それが魅力的であった。相手が患者であろうが同僚であろうが、患者のことや医学のことになるとズケズケとものを言った。人間の尊厳を重んじ、医学的良心に従い妥協をしない。そのため社会的なくだらない習慣を無視して失敗してしまう。

 たとえば他の医師が間違った治療を患者にしていれば文句をいった。そこには医局閉鎖性は見られず、ヒューマニズムの行動、患者本位の考えがあった、医師としての技術を最大に活用しようとする態度、医師としての情熱と正義漢が人気を呼んだのである。

 ベン・ケーシー旋風に、東大の外科医・清水健太郎が「私の周囲にもベン・ケーシーはたくさんいる」と雑誌に書いたところ、ベン・ケーシーのような医師が日本にいるのか、いないのかが論争になったほどである。

 ベン・ケーシーを演じたのは、当時35歳の米人俳優ビンセント・エドーワーズであった。彼の男性的なマスクも人気の一因であったが、西部劇にみられる強いアメリカ、レディーファーストが示す優しいアメリカを象徴する役柄であった。善玉のベン・ケーシーが最後に勝つというストリーが人生の理想像を示していた。

 現在、医師の多くが長袖の白衣の代わりに、半袖の「ケーシースタイルの白衣」を着ている。これはケーシーが着ていた手術着をまねたもので、ケーシースタイルの白衣は現在では定着している。当時はこれに目をつけたメーカーがケーシー・ブラウスを一般人向けに売り出し女性の人気を得ていた。

 ベン・ケーシーの成功以来、「ドクター・キルデア」「ER」「シカゴ・ホープ」など、医者もののドラマが流行することになる。ビンセント・エドワーズは膵臓がんのため平成8年3月11日に亡くなっている。享年67であった。