トキソプラズマ症

【トキソプラズマ症】昭和35年(1960年)

 ネコなどから感染するトキソプラズマ原虫が問題になった。トキソプラズマ原虫の本来の宿主はネコで、ネコの糞便中から排泄され、それが手指を介して口から感染する。当時のトキソプラズマ感染率は日本人全体の2割と高率であったが、健康人であればたとえ感染しても病気として発症するのはごくまれである。

 感染しているネコは無症状で、一般人でもほとんど問題にされないが、エイズなどの免疫不全の患者ではトキソプラズマ脳症を起こすことがある。また女性では、妊娠時に初感染すると、胎盤移行性のため、胎児に先天性トキソプラズマ症をきたすことがある。

 先天性トキソプラズマ症は、妊娠の数カ月前あるいは妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した時に起こりやすい。いずれにしても胎児への感染はまれであるが、感染すれば胎児は重症になり流産することがある。

 先天性トキソプラズマ症では、脳症、痙攣、水頭症、頭蓋内石灰化、黄疸、肝脾腫などが見られることがある。母親を治療することによって、先天性トキソプラズマ症の発生を減らすことができる。一般的診断としては血清抗体の測定が行われ、最近ではPCRによる遺伝子解析も実用化され、治療はスピラマイシンであるが予防接種(ワクチン)はない。

 先天性トキソプラズマ症を治療しなかった場合、出産時には症状を示さなくても、子供が成長すると目や脳に徴候が出現することがある。乳児の発育不全、精神発達遅滞の原因となることもある。このようにトキソプラズマは胎児に影響を及ぼすことから妊娠時の感染が問題になるが、実際にはその頻度はきわめて少ない。

 トキソプラズマはネコに多い原虫なので、妊娠前後はネコに触らないことで、またネコはしばしば庭をトイレ代わりにするので、庭いじりで土や砂に触れて感染することがある。手洗いなどの予防に努めることである。