表現主義(ドイグ)


ピーター・ドイグ(1957~)

 1957年にイギリスのスコットランド・エジンバラに生まれ、幼少時にトリニダード・トバゴ、カナダに移り住んだ後、1979年からロンドンの数校の美術学校でアートを学ぶ。

 その時代、世界的に観念芸術が流行し、アートは難解なものになり、停滞の時期を迎えていた。1980年代に入ると、この閉塞的な状況を打開しようとする動きが起きが起きた。つまり「絵画らしい絵画」を描きたい画家たちと、それを観たい大衆の欲求がひとつになっり、絵画の内容や意味を重視するようになった。

 この流れの中でドイグは、日常を日常のまま描くのではなく、写真・広告写真・映画のワンシーン・絵葉書・ポスターなどを利用して、具象でありかつ抽象でもある世界を描くようになった。鑑賞する者にとっても、「何処かで見たことがある」「行ったことがある」という思いが湧いてくる作品を書くようになった。

 ドイグは「自分の絵をリアリスティックなものとは思っていない。僕の絵は、目の前にあるものではなく、頭の中から生まれたものだと思っている」このように、自分の経験や記憶から得たインスピレーションを重視し、撮りためた写真や広告写真や絵葉書などを利用して風景を描いている。

 ドイグが言うように、幼い頃に暮らしたトリニダードやカナダの美しい風景が織り込まれている。また写真や絵葉書や映画などの画像だけではなく、印象派や後期印象派などの画家が描いた鮮やかな色彩も影響している。絵画の朱色は、時にゴーギャンのそれである。表現主義の先駆けとなったゴーギャンは、目の前にある物や自然を忠実に再現することなく、自由で大胆な色遣いをして感情を表現したが、ドイグの作品もその影響を受けている。