不健康な健康増進法

不健康な健康増進法
 昭和62年 にリゾート法(総合地域整備法)という法律が設定され、日本中が第2のデェズニーランドにあやかろうとした。そしてその結果は、自然破壊と借金の山を残し た散々たるものであった。バブルに浮かれた欲ボケ現象であるリゾート法は、免税などの様々な特典があったがすべてが失敗であった。当時の社会党も勤労者の 余暇活用を名目に法案に賛成したのだからリゾート法の立案責任はあやふやである。また民間企業と第3セ クターが共同で経営したため、経営責任の所在も曖昧のままとなった。このリゾート法は現在でもまだ生きている。法律が生きているということは、リゾート法 が今でも正しいと思っているからである。このように良かれと思う法律が明らかに悪い結果をもたらすことがある。国全体が幻想という思い込みに包まれなが ら、悪法が一人歩きをしてしまうから恐ろしい。
  そして次に危惧されるのが、最近話題になっている健康増進法である。この法律は国会審議では全員が賛成、反対者ゼロというから驚きである。そして公共施 設、病院、医師会館、厚労省までもが全面禁煙になろうとしている。これを人間の知恵というのか、浅知恵と言うのかは読者の判断に任せるが、良かれと思って いることでも理屈通りにいかないのが人間の身体である。健康を法律で義務づけること自体に違和感を覚えるが、もしその法律が間違っていたらどうするのだろ うか。
 日本人は人権、差別、平等、健康という錦の旗の言葉に無条件に従うという悪い癖がある。そしてこの悪い癖が悪い社会をつくる傾向がある。清潔恐怖症が子供の免疫能力を落とすように、健康増進法はむしろ健康減弱、健康ノイローゼを生む可能性がある。
 フィンランド症候群というものがある。これはフィンランドの保険局が行った実験で、40歳から45歳の管理職1200人を2つのグループに分け健康の推移を調査したものである。ひとつのグループ600人は定期検診、栄養学的チェック、運動、禁煙、禁酒、塩分制限などの健康管理を厳格におこない。もうひとつの600人グループは目的を説明せずに健康調査のみを行い放置した。この調査開始から15年 後、予想とはまったく逆の結果となった。健康管理をしなかった放置群のほうが心臓血管系の病気、高血圧、がんの発症、死亡率、自殺率、これらすべてが管理 群より少なかったのである。この事実は何を意味しているのだろうか。健康を求めることがストレスとなり、健康を考えない無頓着な人間のほうが長生きするこ とを示している。人間の健康を管理しようとするとその逆の現象が起きる。これが健康管理のパラドックスである。健康管理がストレスを生み、そのストレスが 健康に悪影響を及ぼすと考えられた。
  健康のためには健康を厳格に管理した方が良いという思い込みが強い。しかしフランス人はヨーロッパ人のなかで飲酒もタバコの本数も多いが、ヨーロッパ人の 中では長生きの方である。またモルモン教徒はキリスト教徒の中で最も厳格な生活を行っており、禁煙、禁酒は当たり前、それに加えて浮気厳禁の宗教である が、モルモン教徒の平均寿命が一般人より有意に長いというデータはない。
  健康管理は健康のためにあるべきである。しかし健康のためと称する法律が不健康を招く可能性が高い。健康増進法は予防医学、生活習慣病を少なくして医療費 を抑制しようとする考えが根底にあるのだろうが、健康増進法がはたして国民の健康に結びつくかどうか不明である。禁煙によって増えるのは体重増加による糖 尿病と自殺率というデータがある。
  国民が健康を願うのは当たり前のことである。しかし健康とは健全な肉体と精神に宿るものである。健康ばかりを気にすると不健康な人間が増えそうで恐ろし い。健康については真面目に考えず、ある程度いい加減な部分がないと、健康不安病が増えることになる。「みのもんたの健康番組」が健康狂騒曲であるよう に、健康を求めることが悪い結果をもたらす可能性が強い。法律で無理に禁止すれば、禁酒法と同じでその反動が悪い結果をもたらす可能性がある。
  かつて短命国だった日本は、健康を気にしないうちに世界一の長寿国となった。しかし健康増進法によりこの世界一の長寿国が維持できるかどうか分からない。 ただ言えることは、日本は健康を目指しながら、世界一の健康不安国になることであろう。真に健康的生活を目指すならば、酒、タバコに課税するように体重に 課税したほうがより効果的である。もちろん効果的ではあるが、このような人間の権利を奪うような不健康な法律には反対である。