仮面の紳士

【仮面の紳士】昭和61年(1986年)

 昭和61年12月13日、厚生省の医道審議会は福岡市の産婦人科医師・坂本英雄(58)の免許取り消し処分を決定した。坂本英雄は女子高校生らに現金を手渡し、小遣いに困っている可愛い友達がいたら紹介してくれるように頼み、みだらな行為を重ねていた。

 坂本医師は女子高校生と性的関係を持ち、医師として初めて児童福祉法違反教唆に問われ、懲役1年、執行猶予4年の刑を受けた。坂本医師は地元では名士として知られており、ライオンズクラブ会長、少年野球リーグの世話役、市医師会役員、看護学校教官などを務めていた。さらに自分の懐を肥やすため、巨額の脱税をはじめとした6つの罪状を重ねていた。青少年育成に大きな役割を果たしていただけに、その不祥事は地域社会に強い衝撃を与えた。

 同じ理由で沖縄県沖縄市の古波蔵昇医師(46)が医師免許取り消し処分となっている。古波蔵医師は、沖縄県立名護病院に勤務中の昭和63年10月から平成元年までの間、当時11歳から13歳の少女4人に、海岸や車、モテルなどでいたずらしていた。そのため強制わいせつなどで懲役2年執行猶予3年の刑を言い渡されている。

 医師は全国で約26万人いるのだから、医師の中に犯罪者がいても不思議ではない。彼らは患者の前では紳士という仮面をかぶり、自分以外の人間を演じていたのだろうが、犯罪者に変わりはない。

 しかしながら、無職の者が罪を犯した場合は、裁判での刑罰に従うだけであるが、医師が罪を犯した場合、裁判での刑罰に加え、医師免許の取り消し、職場では懲戒免職となる。職業柄仕方がないと思いがちであるが、あまりに不公平ではないだろうか。