反面教師、ヒットラー

 ヒットラーは600万人のユダヤ人を殺害しただけでなく、50万人のソビエト人捕虜を殺害し、ドイツ人でも精神病患者や奇形児を殺害していた。これがヒットラーの優生思想である。
 国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)党首としてアーリア民族主義と反ユダヤ主義を掲げたヒットラーが、自国民さえ殺害しているのに、なぜドイツの総裁になれたのか、ヒットラーを毛嫌いする前に、ヒットラーから学ぶべきである。
 当時のドイツは世界大恐慌に襲われ、また第一次世界大戦の敗戦による巨額な賠償金を抱えていた。そのため街には失業者が溢れ、生活苦による不満がみなぎっていた。ヒットラーはこの大衆の不満を利用した。国粋主義的、右翼的な考えでドイツの不況をそれまでの政治家の失政と批判し「ドイツを健全にするのは自分である」と国民を洗脳した。ここで重要なことは、ヒットラーは国民洗脳の方法として3つのSを使ったことである。3Sとはスクリーン(映画)、スポーツ(プロスポーツ)、セックス(性産病)である。大衆の関心を政治に向けさせないための愚民化政策であった。
  現在の日本を考えてみれば、ヒットラーの3Sに加えSake(儲け)、Speed(技術の進歩)、スマホを加えた6Sが愚集化政策の柱である。日本は独裁政治ではないが、日本国民はこの6Sに完全に毒されている。かつての日本人は礼節を重んじる思慮深い民族であった。しかし現在では自己中心主義、拝金主義、享楽主義、このような恥ずかしい民族に成り下がっている。これを日本の国民病と言わずに何と呼べばよいのだろうか。
 この国民病はマスコミがつくった6Sによる。すなわちテレビ、雑誌、インターネット、スマホなどが日本と日本人を悪くした。情報化時代と言いながら国民は情報洪水に溺れ、子供や青年たちは溺死寸前なのに病識はない。
 テレビは軽薄な芸能人の笑いとスキャンダルばかりで、どうでもよい6S番組が視聴率を競っているが、これもまた視聴率、すなわちテレビ局のSake(儲け)のためである。
 スポーツ番組、温泉情報、お笑い番組などよりは、むしろ「日本のあり方」を論じる方が数百倍も大切なのに、この日本をどうするかが論じられることは少ない。長引く不況、所得格差、学生の学力低下、少子高齢化、これらにどう対応するかの論争はみられない。また論争はあっても、視聴率を狙った劇画的論争ばかりで、真面目な顔をした不真面目な論争である。6Sも娯楽と割り切ればよいが、重要な社会問題に対して大衆を無関心に導くのは問題である。
 子供は親や先生の言うことよりも、テレビや雑誌の内容を信じ、自分で考える思考力を失っている。知識だけで知恵がない、屁理屈ばかりで創造性がない、初めから挙足取りの構えである。技術立国の日本の子供たちがこのようなことでは、いずれ日本は潰れてしまうであろう。
 昭和の時代の雑誌を読んでみるとその内容は真面目である。また文章が実に上手い。それは廃刊となった朝日ジャーナルだけでなく、一般の雑誌も同じであった。しかし現在の雑誌は写真ばかりで、軽薄な文章は読んでも何も頭に残らない。
 街ではスマホを握りしめ、電車に乗ればスマホばかりを見つめている。スマホで日本の防衛論をメールしているとは思えない。やはり目の前の享楽である。しかも小学生がスマホを持つような社会はすでに病気である。
 国民の愚衆化は政府にとっても、企業にとっても都合が良い。しかしこのままでは日本はこの国民病に冒されたまま死を待つだけになる。現在、日本は700兆円の国の借金、300兆円の特殊法人の借金がある。国民1人当たり約1000万円の借金を返す当てがどこにあるのか。日本が破産するのは時間の問題である。あるいは政府がいう1000万円の借金そのものが公的なウソで、そのため金儲けに敏感な外人が日本の債券を買い円高なのかもしれない。
 国民の愚衆化を解決するには、まず6Sを自覚することである。国の借金、不況、学力低下などを真面目ぶっての議論より、愚衆化の改善策をマスコミが国民に提示すべきである。テレビ、新聞、雑誌が日本社会の改善策を競い合い、よりよい日本を築くことである。ヒットラーの3S、現在の6Sをばらまいたマスコミが責任をとって改善策を競うべきである。たとえそれが悪書の追放、焚書でもかまわない。どれが本当で、どれがウソなのか。あるいは愚衆化ではなく娯楽に過ぎないと反論してほしい。日本が沈没する前に、日本が破産する前に、日本人が発狂する前に、マスコミはこの国民病を治すべきか、このままでも良いのかをオピニオンリーダーとして方向性を示してほしい。
 ヒットラーは健全なドイツ人を洗脳したが、日本のマスコミに期待するのは、日本人の汚れた脳を、ただ普通の脳に戻してほしいだけである。