コーギー

 子供の情操教育をかねて犬を飼うことにした。都内の犬屋を数軒訪ね、ケージに入った犬を見てまわった。かつて捨て犬を飼っていたことがあったので、犬には慣れていたが、その値段の高さには驚いてしまった。数十万円の犬ばかりだった。店内でどの犬を買おうかと迷っているうるうちに、値段の高い犬が良いだろうと思うようになった。物の価値は値段に比例するとわが脳ミソは毒されていたのである。しかし妻はこの犬でなければいやだと一匹の犬を指さした。それは貧相な顔をしたコーギーであった。コーギーはエリザベス女王が飼っていることで有名になった犬種で30万円前後が相場の犬でる。しかしその上目遣いで見つめるコーギーはなぜか2万円でした。値段の安いものには欠陥があると小声で文句を言ったが、妻は耳を貸さずレジで2万円を払ってしまった。そして帰りの自動車の中で「この犬はあと数日の命だったのよ」と犬を抱きしめながら妻がいったのです。つまり売れ残った犬は値段が下げられ、それでも売れなければ安楽死にするのがこの業界の常識であることを教えてくれた。妻がこの犬を買ったのはこの犬の命を助けたい気持ちからだった。この日だけは妻を尊敬してしまった。そして医師としての基本的姿勢を教えられた気持ちになった。2万円のコーギーは、最近、飼い主に似て凛々しい顔つきになってきている。