賛同の拍手

 約5年前のことであるが、ある有名な医学部教授が学会でノーベル賞以上の驚くべき発表を行った。それは自分の弟子たちが全国の医学部の教授になっているので、彼らの源泉徴収票を集め学会で発表したのである。その結果、教授の手取り額は30から40万円ぐらいであることがわかった。
 その後、厚労省の賃金統計調査が国立大学医学部の給料を公表したが、大学教授の年収は1100万円(57歳)、准教授の(助教授)は870万円(46歳)、講師は700万円(43歳)であった。これは年収なので、年収から税金や社会保険料などが引かれれば、手取りはほぼ30から40万円になる。
 大学教授が公演をしても1回3万円程度で、本の印税も医学書は売れないのでパソコンのインク代にもならない。医学部の教授は通常の診療や雑用をこなし、教育者と研究者を兼ねているので、超多忙であるが、多忙の割には貧乏乞食である。教授が着ているのは安物のヨレヨレ背広で、製薬会社の新人社員は高級な背広を着て挨拶に来る。学会に行く教授は自腹でエコノミークラスであが、製薬会社の社員は腰を下げ、頭を掻きながらビジネスクラスである。
 株式会社は社員の平均年収を報告する義務がある。その平均年収が就職活動の常識であるが、年収第1位の会社の従業員は平均30歳で2000万円を超えていた。医師と同じく人命を扱うパイロットの機長の年収は2300万円で、貧困格差を食い物にしている朝日新聞社は1300万円であった。しかもこの平均年収にはトリックがあり、役員を除く従業員の平均年収で年齢とは関係ない。もし役員ならば年収はその数10倍で、経費は使い放題であろう。
 かつての医学部は徒弟制度でヤクザの世界であった。教授は仲人をすれば、博士号を与えれば、さらに製薬会社からは100万単位の礼金が入った。現在では教授は結婚式に呼ばれず、博士号を取る者は少なく、患者や製薬会社からの袖の下はほぼ消滅している。また海外留学が長いので年金はもらえず、定年後は収益にならないので病院などへの就職先はない。
 もちろん貧富には上には上が、下には下がいるが、しかし国立大学の授業料が年間50万円の時代である。学問に生きようとする大学院生の貧困や就職難を招くような狂育は納得できない。優秀な学生は授業料を免除すべきで、日本の奨学金制度は貧困ビジネスから足を洗うべきである。政治家が何を言ようとも、このような狂った制度は間違いである。
 ちなみに我がアホ娘はパリ音大に留学したが、授業料、コンサート代、医療費はすべてタダだった。パリジェンヌのように着る服は3着だけ、食べ物はフランスパンだけだったので、生活費は日本の数分の1であった。
 資源のない日本は学問、研究で生きてゆくしかない。頭脳だけが頼りの日本なのに、このような狂った教育体制でよいのだろうか。
 医学部教授は学問が大好きな、金持ちのボンボンと思っていた。あるいはバカだから教授をやっていると思っていた。しかし「日本の教育環境が嘆かわしいほどに狂っているための犠牲者」、と考えを改めることにした。そして「日本の将来」「日本の子供たち」、とお題目を唱える政治家こそが、バカで恥知らずと思い直すことにした。学会という学問の場で、学問を支える家計を発表した勇気ある医学部教授に賛同の拍手を送りたい。