ラヴェル「マ・メール・ロワ」

おとぎの世界へようこそ

ラヴェルがある小さな友人のために作ったピアノ曲

描いたのはファンタジーの世界だった

 

読み聞かせるように

ピアノ組曲「マ・メール・ロワ」は、5つの曲で構成されています。「眠りの森の美女のパヴァーヌ」、「親指小僧」、「パゴダの女王レドロネット」、「美女と野獣の対話」、「妖精の園」。タイトルからもわかるとおり、おとぎ話が引用されています。そのどれも、子どもがワクワクするものばかり。ラヴェルはそれらのおとぎの世界を、見事にピアノ曲として創り上げたのです。ラヴェルはこの曲で自分の子ども時代のポエジーを描きたかったという言葉を残しています。自分の中に奥深くしまっている子ども心を、優しさをもって描いた「マ・メール・ロワ」。そこにはラヴェルの純粋な子ども心が映し出されていたのです。

 

小さな友人へ

モーリス・ラヴェルは1875年フランス・バスク地方生まれ。生涯独身だったものの、子どもがとても好きでした。35歳の時に発表した「マ・メール・ロワ」は、ある子どものために書かれた作品です。その子どもとは、親友の子どもであるミミとジャン。小さな頃から成長を見守ってきたラヴェルに、二人はよくなついていました。たくさんのおとぎ話を読みきかせるなど、ラヴェルにとって純粋な子供たちと過ごす時間は、心おだやかで楽しいものだったのです。しばらくした頃、ミミとジャンはピアノを習い始めます。しかし、姉のミミはあまり練習熱心ではありませんでした。それを見ていたラヴェルは、二人にある曲をプレゼントします。それこそが組曲「マ・メール・ロワ」。世界中の子どもたちに愛されるおとぎ話を元に、ミミとジャンのためにピアノ曲を作ったのです。子どもが弾けるようにと、演奏も極力やさしく、シンプルなものに。そして、二人が一緒に弾けるようにと連弾曲にしました。子どものような純粋さを持つ、ラヴェルならではのプレゼント。あたたかな思いが名旋律を生み出したのです。

 

愛のドラマをふたりで

第4曲「美女と野獣の対話」は、美女と野獣の二人の気持ちがわかりやすく音楽で表現されています。

①美女を担当するのが高音域を演奏するプリモ奏者。優雅な女性をイメージ。

②野獣を担当するのが低音域を演奏するセコンド奏者。低い音程と不協和な響きで醜い野獣の姿を表現している。

③野獣が美女にプロポーズするシーンでは、セコンドの音程が徐々にあがり、プリモに迫っていきます。そして近づいたと思ったら今度は、低い音程に戻っていく。美女への思いは届かず、野獣の寂しさが感じ取れます。

④そして後半、美女が野獣の一途な思いと優しさにひかれ、結婚を決意すると聞こえてくるのが「グリッサンド」。鍵盤の上を指ですべらせる奏法で、野獣がハンサムな王子に変身したことを表現しているのです。