メンデルスゾーン「バイオリン協奏曲」

友情が生んだ名旋律

絶大な人気を誇るこの協奏曲は、オーケストラ改革に取り組むメンデルスゾーンを陰で支えた名バイオリニストのために書かれました。

冒頭に出てくる高く澄んだメロディーの、美しさの秘密に迫ります。

 

おきて破りの協奏曲

この曲には、当時の協奏曲としては「おきて破り」な部分がたくさんあります。①曲の冒頭からいきなりソロが登場する、②バイオリンソロが伴奏に回り、オーケストラがメロディーを演奏する部分がある、③作曲家みずから楽譜に見本のカデンツァを書き込んでいる、などです。こうした「おきて破り」を試みたのは、メンデルスゾーンが「ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団」の音楽監督として、オーケストラを有名にする、という使命を担っていたからです。当時の演奏会は歌手やバイオリニストが主役で、オーケストラはあくまで「伴奏」でした。ソリスト目当てでやってくるお客さんにオーケストラそのもののファンになってもらうためにメンデルスゾーンが書いたのが、この「バイオリン協奏曲」です。ソロが主役・オーケストラが伴奏というのではなく、それぞれが引き立つまったく新しい協奏曲。いくつもの「おきて破り」は、そのための工夫だったのです。

 

名旋律は友情の証し

この曲を初演したダーフィトは、メンデルスゾーンとは家族ぐるみの友人で、新しい曲を書けば一緒に演奏したり批評し合ったりする「盟友」でした。メンデルスゾーンは、ゲヴァントハウスの音楽監督になるとすぐにダーフィトをコンサートマスターとして呼び寄せ、共にオーケストラ改革にまい進しました。「バイオリン協奏曲」は、そんなダーフィトにメンデルスゾーンが贈ったプレゼント。ダーフィトの持ち味が生きるよう、何度も本人の希望を聞きながら作曲を進めました。ダーフィトはバイオリンの高い音が大好きだったため、この曲は冒頭からバイオリンの高く澄んだ音が印象的な曲に仕上がりました。言ってみれば、メンデルスゾーンと盟友ダーフィトの信頼と友情が生んだ名曲なのです。

 

い~線いってる!?高音の響き

ダーフィトが好んだ高い音を、1オクターブ下げて演奏したらどう聞こえるのか?メンデルスゾーン直筆の「初期スケッチ」とは、どんな音楽なのか?バイオリニストの成田達輝さんも参加して、有名な冒頭のメロディーをさまざまな形で聴き比べました。