チャイコフスキー「花のワルツ」

バレエを救った“音楽の力”

~チャイコフスキーの『くるみ割り人形』から「花のワルツ」~一度は歴史から消えかかった『くるみ割り人形』。

奇跡の復活をとげた原動力とは?

 

子ども心をわしづかみ!聖夜の魔法

チャイコフスキーが書いた最後のバレエ音楽『くるみ割り人形』は、クリスマスの夜の物語。主人公の少女クララがもらったくるみ割り人形は、実は魔法にかけられた王子様で、二人は一緒に、ネズミの王様と戦ったり、おとぎの国を訪ねたりといった冒険をします。おとぎの国では、世界中のさまざまな踊りを見て楽しい思いにひたったクララ。目覚めるとそれは夢で、しかし幸せな気持ちはいつまでも残りました。「花のワルツ」は、おとぎの国を訪れた二人を歓迎して住人たちが踊る群舞。バレエを離れ、単独のオーケストラ曲としても絶大な人気を得るようになりました。

 

名作バレエ奇跡の復活劇

チャイコフスキー最後のバレエ音楽となったこの曲ですが、台本の不出来が原因で、初演の評判はよくありませんでいた。しだいに上演されなくなり、歴史から消え去るかと思われましたが…。実はチャイコフスキー、バレエ初演より先に「組曲版」を作り上演していました。オーケストラの演奏会用に新曲を依頼されたものの忙しくて書けず、代わりに『くるみ割り人形』から8曲を選び先に完成させたのです。組曲版は大成功、「花のワルツ」をはじめとする各曲はチャイコフスキーの代表作のひとつになります。この人気を受けてバレエ版も再び上演されはじめますが、台本があいまいなので、各バレエ団がチャイコフスキーの音楽をもとに、自由に独自の演出・振付をするようになりました。お陰で今では、世界中のバレエ団が競って上演する人気演目になっています。

 

合いの手の魔術師!?

メロディーメーカーというイメージのあるチャイコフスキーですが、楽譜をよく見ると、旋律そのものはとてもシンプルな骨格をもっています。そこに、さまざまな飾りをつけます。例えば、バイオリンの流れるようなメロディーの合い間に、フルートが高い音で細かく短いフレーズを挟んでいきます。こうした「合いの手」を上手に入れることで、チャイコフスキーの美しいメロディーは出来あがっているのです。