ショパン「幻想即興曲」

偉大なる「影」の存在

~ショパンの「幻想即興曲」~番組あてに届いたリクエストでNo.1に輝く曲、ショパンの

「幻想即興曲」。

しかし、この曲はショパンが生きている間は出版されませんでした。

この曲を世に広めたショパンの「影」の存在に迫ります。

 

即興ではない即興曲

ピアノのお稽古を始めて、ちょっと上達したら弾きたいと多くの人が憧れる曲、「幻想即興曲」。印象的な出だしから一気に駆け抜ける疾走感。静寂に響く懐かしくも美しいメロディー。そして再び追いたてられるように、突如走り出すスリル!予測不能な息もつかせぬ展開が、ドラマティックに繰り広げられる魅力的な曲です。タイトルにある「即興」とはアドリブのこと。アドリブとは、自由に思うままに演奏する事です。しかし、クラシック音楽の「即興曲」は、「あたかも即興で作られたかのような曲」のことで、作曲家が考えに考えて作ったというより、思いつき、インスピレーションを大事にして短くまとめられた曲のことを言います。ショパンは4曲、即興曲を作りました。最初に作曲したのが「幻想即興曲」。その場で生まれたばかりのような、新鮮なエネルギーに満ちた「幻想即興曲」は、ショパンの作品の中で、最も人気のある曲となりました。

 

 

陰で支え続けた友

ショパンが24歳の頃作曲した「幻想即興曲」が出版されなかった理由は、他の曲に似ていた、ショパン自身は失敗作だと思っていたからなど、いろいろな説があり、ハッキリしていません。ショパンは死の間際に、「残した楽譜は、必ず全部焼却して欲しい」と遺言します。ところが、この遺言を破った男がいました。ショパンの幼なじみのユリアン・フォンタナです。法律を学び、音楽の知識も豊富だった彼に、ショパンは全幅の信頼を置いていました。フォンタナはショパンの日常から、楽譜の清書、出版社との交渉に至るまで、全てを任されていたのです。ショパンの死後、無許可の楽譜が町にあふれ、「完全なものだけを出版する」と言っていたショパンの意志に反する事態がおきます。そこで、ショパンの事を最も良く知るものとして、フォンタナは、残された楽譜を遺族の同意のもと、公式な遺作集として出版したのです。その1曲目におさめられたのが「幻想即興曲」だったのです。 陰で支え続けた友が、ショパンの最も愛される作品を世に送り出したのです。

 

計算された即興

曲の冒頭、右手と左手は違うリズムを刻みます。左手が6つ刻む間に、右手は8つ音を刻みます。この微妙な音のズレは、「割り切れない気持ち、複雑な心のひだ」」を表現し、曲の始まりを印象的なものとしているのです。

曲の中間分は、テンポも遅くなり、転調します。しかし、違和感なくスムーズに曲は流れています。その技は、「異名同音」。例えば、ソ♯とラ♭のように、名前は違うけれども、高さは同じ音の事です。転調しているけれども、フレーズの始まりの音と終わりの音は、「異名同音」。まったく同じ音なので、違和感なく曲は流れていくのです。