バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」


埋もれた宝を探して

作曲家バルトークはある宝探しに情熱を傾けた!

森のかなたで見つけ、自分流に磨き上げたその宝とは?

 

森のかなたの宝物

ルーマニア北西部トランシルヴァニア地方。かつてはオーストリア・ハンガリー帝国の領土でしたが、第一次世界大戦を経て、現在はルーマニアの一部となっています。トランシルヴァニアとは「森のかなたの国」という意味。深い森、そして牧草地や小麦畑が広がる、緑豊かな地域です。その大地を支えるのが、昔ながらのやり方で農業や牧畜を営む人々。この地で古くから大切にされてきた宝、それが「民謡」です。代々受け継がれてきた歌や踊り。民謡は、今も村のあちこちで響いています。「ルーマニア民俗舞曲」は、そんなトランシルヴァニア地方に伝わる旋律を元に作られたピアノ曲。6つの小さな曲から成り、そのどれもに、農民の暮らし、そして踊りのリズムが織り込まれているのです。

 

歌のなる木を求めて

バルトークの音楽人生を変えたのは、24歳の時に耳にした下宿先である女性が口ずさむ素朴な民謡でした。楽譜にも記されていない歌は手つかずの「宝」のように思えました。そして、多くの人が見過ごしてきたその宝を、大切にしなければと考えたのです。彼は、蓄音機を背負い、民謡を記録するため周辺の村へ出かけました。時間をかけて村人たちの信用を得て、一人、また一人と、歌を録音させてくれるようになったのです。その瞬間は、まるで「歌のなる木」が表れたよう。目の前で、探し求めた村の民謡が次々に響きました。ルーマニア民俗舞曲もバルトークが採集した音楽が元になっています。村人が奏で、歌い継いできた音楽が、バルトークの創作の力となったのです。

 

魅惑のスパイス

バルトークはトランシルヴァニアで録音した音楽からメロディーを忠実に再現しながらも、独特の伴奏を加えることで、さらに生き生きとした響きになっている。

①豊かな香り付け

バラエティに富んだ伴奏で、シンプルなメロディーに、香りがつく

②不思議な味付け

第5曲「ルーマニアのポルカ」で表れる変拍子。3-3-2という変則的な拍子に、複雑な伴奏を加えることで、拍子を失いかける不思議な感覚を与える。聴く者をひきつける細かな工夫が織り込まれている。

民謡というシンプルなものを、伴奏のアレンジや音の重ね方の工夫で多彩にさせた。