ハイドン「驚愕」

私はあなたを飽きさせない!

交響曲「驚愕」はその名のとおり聴衆をビックリさせる仕掛け満載の作品。

ハイドンは苦労の多い宮仕え人生をビックリアイデアで乗り切ってきた!

 

でっかくなっちゃった!

この曲は冒頭からピアノ「弱く」という指示のもと、小さな音量で演奏が続くが16小節目で不意打ちのように大音量が奏でられる。これこそ、この曲が「驚愕」と言われる所以だ。ハイドンは50歳を過ぎる頃にはヨーロッパ中にその名が知られる作曲家となっていたが、58歳の時にロンドンでコンサートを主催していた興行師ザロモンに新作の依頼を受ける。当時ロンドンは世界有数の音楽都市で、ザロモン率いるオーケストラも大きな編成。破格の条件を示されたハイドンは早速作曲にとりかかり、後にロンドンで12の交響曲を発表する。「驚愕」もそのうちのひとつで、ロンドンの聴衆は大喝采。このロンドン公演を機にハイドンの名声は不動のものとなった。

 

飽きさせない!

アイゼンシュタットのエステルハージ宮殿はハイドンが30年近く過ごした場所。ハイドンはこの地で一大勢力を誇った大貴族エステルハージ侯爵に仕え、宮廷の音楽家としての日々を送った。雇い主のエステルハージ侯はハイドンに食卓を彩る音楽、週2回のコンサート、侯爵が演奏するための音楽、など様々な音楽を注文。侯爵に対し膨大な数の曲を作っていく中、ハイドンがこだわったのが「飽きさせない」ことだった。ハイドンは宮廷の楽団を使って、楽器の音色の特徴や組み合わせによる音の効果などを研究し、作曲の技術を磨いていった。伴奏が多かった楽器にメロディーを演奏させる曲を作り、聴衆の耳を引きつけるなどした。

 

ビックリ! こうなると思いきや

「驚愕」のビックリは、冒頭の大音量だけではなく第2楽章を通じて随所に見ることができる。ひとつは「短調」が登場する場面で、短調がしばらく続くと思いきや、すぐに長調に戻る場面。もうひとつは、ウラ拍が登場する場面で、ここもしばらくウラ拍が来るのかと見せかけて、すぐにオモテ拍に戻り、その後またウラ拍に戻る。このようにハイドンは「普通ならこうくるだろう」という場面で聴衆の期待を良い意味で裏切り、聴衆を飽きさせない音楽を作った。