レハール「メリー・ウィドー」

甘いワルツとともに

オペレッタの一時代を築いたレハールの作品

ロマンチックに愛を盛り上げる仕掛けがあった

 

愛を盛り上げる名脇役

「愛の百科事典」とも呼ばれるウィンナ・オペレッタ。「メリーウィドー」は、莫大な財産をもつ美女ハンナと彼女の元恋人ダニロを中心とした大人のラブストーリーです。意地を張り素直になれない二人の恋のかけひきが描かれ、最後にはようやく結ばれます。そんな恋の行方を盛り上げるのが、バラエティに富んだ舞曲の数々。レハールの作った「メリー・ウィドー」にはさまざまな種類の“舞曲"が詰め込まれているんです。それはまさに舞曲のフルコース!カンカン、マズルカ、ウィンナ・ワルツ…メロディーやリズムが登場人物の心情を表しているのです。

 

白羽の矢が立った男

現在のハンガリー、ブダペスト近郊の街で生まれたフランツ・レハール。12歳でプラハ音楽院に入学しその後、バイオリニストとして活躍しながら、作曲の技術も磨いていきます。ウィーンへ移り、劇場指揮者をしながら、ヒットを狙い作品を書き続けていました。30代なかば、そんな彼に大きな転機が訪れます。メリー・ウィドーとの出会いです。ウィーンで活躍する人気台本作家がこの作品をオペレッタに仕立てる作曲家を探していました。そこで白羽の矢が立ったのが、オペレッタ作曲家としては駆け出しのレハール。彼はぜひ作曲を任せてほしいと申し出ます。作曲は順調に進んだものの劇場スタッフは難色を示しました。これまでのコミカルな要素が強い一般的なオペレッタに比べ、メリー・ウィドーは、センチメンタルな雰囲気が混じり受けないだろうと思ったのです。ところが、蓋を開けてみると、回を重ねるごとに観客数はどんどん増えていきました。センチメンタルで上品なラブストーリーとメロディーが受け、徐々に人気が高まったのです。このヒットは世界中に広がり、無名の男だったレハールは、大きく羽ばたいていったのです。

 

声と声が重なる時

物語の終盤に登場する愛のワルツはハンナとダニロの二重唱。それまで意地を張り合っていた二人がようやく素直な思いを口にする場面です。

①イントロ部分のバイオリンとチェロのかけあい。まるでハンナとダニロが、言いたいけど、言えない・・そんな二人のもどかしさを感じさせます。

②まずは、ダニロが素直な告げます。そしてその思いをうけとめたハンナの歌い出しは「Valse lento(ゆっくりなワルツ)」。ゆっくりと歌い始めることで、彼女がこれから大切な話をする、思いを伝えるというのが伝わる。

③そして、最後はやっとダニロとハンナの声が重なる。同じメロディー、同じ歌詞を歌うことで二人の思いがようやく重なり合ったことがわかる。ロマンチックな愛のワルツで愛の告白シーンを盛り上げる仕掛けになっている。