ヘンデル「オンブラマイフ」


異国で成功する方法「なつかしい木陰」とも訳される「オンブラマイフ」。

作曲したヘンデルは、ドイツからロンドンに渡り大成功を収めた人物だった。

そのサクセスストーリーの裏側に迫る!

 

ロンドンのオペラが熱い!

18世紀初頭、イギリスの首都ロンドン。すでにヨーロッパ有数の大都市として発展していたこの街も、音楽の世界ではまわりの国に後れを取っていました。しかし、そこへ巻き起こったのが、イタリアオペラブーム。当時、オペラの本場といえばイタリアでしたが、ロンドンでもイタリア語の新作オペラが次々に上演され、派手な衣装や大仕掛けの舞台に人々は熱狂したのです。そんなイタリアオペラに欠かせないのが「カストラート」でした。声変わりを避けるために少年時代に去勢された男性歌手たちがイタリアから招かれ、その歌声はロンドンっ子の心をわしづかみにしました。このイタリアオペラブームの中心人物が、作曲家ヘンデルです。彼はロンドンで36ものオペラを生み出し、その活躍によってこの街のオペラ文化は大きく花開いたのです。

 

ひとりでも前向き人生

1685年、ヘンデルはドイツ中部の町ハレで生まれました。彼はイタリアへ音楽修業の旅に出かけ、本格的なイタリアオペラを作曲・上演するなど、貴重な経験を積みます。そして25歳の時、単身イギリス・ロンドンへ。オペラ作曲家として、そしてロイヤル音楽アカデミーというオペラ団体の音楽監督として活躍します。彼の多忙な音楽活動を支えていたのは、旺盛な食欲でした。そしてドイツ語なまりのユーモアあふれる話しぶりとひょうきんな人柄で、人気作曲家の地位を築き上げました。しかしロンドンのオペラブームはやがて下火に。52歳の時には卒中で倒れ、体の一部が不自由になってしまいます。ところが6週間の湯治で健康を回復。病から立ち直ったヘンデルは、再びオペラの作曲を始めます。男と女の恋の騒動を喜劇的に描いた「クセルクセス」。それは、これまで彼が手がけてきたまじめな英雄オペラとは異なる、新しい感覚のオペラでした。

 

もっと心地よく…

「オンブラマイフ」の歌の冒頭は最初の長い一音が特徴。それはカストラートの美しい声の聞かせどころでした。木々の間から吹くそよ風のように、すっと自然に始まる心地よいオープニングです。そして、この曲には注目すべき歌詞があります。「soave più」、直訳すると「これほどに心地よい」。曲の中間部で音楽が大きく高揚した後に歌われるこの部分は、和音も短調になるなど、ドラマチックであり、切なくもあり、甘くもありという複雑な感情を表現しています。他にも様々な表情を伴って歌われる「soave più」に注目しながら、この曲を聴いてみてください。