ウィンスロー・ホーマー

 ウィンスロー・ホーマー(1836-1910年)は19世紀後半のアメリカン・リアリズムの代表的な画家である。ホーマーは「印象主義前派」とも呼ばれコローとモネの中間とされている。

 印象派の画家たちに最初に注目してパトロンとなっていったのは、ヨーロッパ人ではなくアメリカ人だった。フランスの美術館が印象派の作品を購入しなかった時期、すでにアメリカの美術館は収蔵品として受け入れている。

 19歳のときにボストンのジョン・バフォードに師事し、その後、挿絵画家としてニューヨークで活躍した。1865年には29歳という異例の若さで国立デザイン・アカデミーの会員に選出されている。

 ホーマーの初期の作品は非常にわかりやすく、少年時代に過ごした雄大なアメリカの自然がテーマとなっている。それは「ハックルベリー・フィンの冒険」や「トム・ソーヤの冒険」に出てくるような心躍るみずみずしい世界である。

 1867年パリに滞在するが滞在期間が短かったため、フランス絵画や印象主義の影響を受けなかった。ホーマーの絵画は独学で、自由で端正な画面はアメリカの画家のなかでも評価が高い。彼特有のまばゆい外光表現、鮮やかな色彩対比、見たままをそのまま描く写実の態度などが、印象派絵画に近い画面を生み出す結果となった。

 ホーマーは南北戦争の間、戦争記録画を描き、また1875年まで雑誌「ハーパース・ウィークリー」のイラストを描いていた。そのため彼の作品は確固とした形態をとらえる力を感じることができる。また誰にでも理解しやすく親しみ易く、明晰で安心感に満ちた構成となっている。

 ホーマーのような自由で明るく喜びにあふれた自然描写が、新鮮な感動で受け入れられたアメリカという新興国ならではの寛容さと強い好奇心を持ち合わせていました。ヨーロッパは「芸術のための芸術」と言うべき理念の芸術を生み出してきたが、アメリカのホーマーは「社会の現実からの芸術」と言える。その意味でホーマーは、才能あふれる画家であり、売れっ子のイラストレーターでもあった。ある意味でとても意味深い二つの顔を持つ、アメリカ的な画家と言える。

朝の鐘

コネティカット州、 エール大学・アートギャラリー

この作品では巧妙な構成でホーマーの遊び心が見える。中央の少女が歩む登り坂になった小道はシーソーのようで、その上への心地よい傾きは、木の幹の垂直な線と組み合わされバランスを保っている。澄んだ空気の向こうから、朝の鐘が聴こえてきそうで、清らかな大気にすいこまそうになる。

 ロングブランチはニュージャージー州モンマス郡にある海辺の小都市である。現在ではニューヨークから車で3時間ほど走れば、美しいビーチにたどり着くことができます。身の回りの生活や自然を描くことを得意としたホーマーにとって、この海辺の光景は親しみやすい、心になじむものだったのであろう。