ラ・フィーユ・マル・ガルデ

あらすじ

 農家の未亡人シモーヌは一人娘のリーズを裕福な家に嫁がせたいと考えたが、リーズにはコーラスという貧しいが魅力ある恋人がいた。シモーヌはコーラスが娘に近づかないように監視していたが、シモーヌの目を盗んでリーズとコーラスは愛を育んでいた。

 ある日、金持ちのぶとう農園主トーマスがちょっと頭の足りない息子のアランを連れてきて「リーズをアランの嫁に」と結婚を申し込む。シモーヌは大いに乗り気になり、トーマスとシモーヌはアランとリーズを連れて、収穫で賑わう麦畑へピクニックに出かける。 

 納屋に隠れて話を聞いていたコーラスは、一行の後を追う。トーマスとシモーヌはアランとリーズを二人きりにして仲良くさせようとするが、農夫を味方につけたコーラスはうまくアランをまいてしまう。そしてコーラスとリーズは農夫たちと楽しくダンスを踊りながら愛を確かめあった。

 突然の雷雨になり、シモーヌとリーズはほうほうのていで家へ戻った。トーマスとの間で娘の結婚話がつき、今日にも法律的な結婚手続きを済ませようという事になった。しかし所用で外出している間に、収穫したばかりの麦の束に紛れてコーラスが家の中に入り込んでしまった。

 リーズは、コーラスが会いに来てくれたのをうれしく思うが、シモーヌが戻って来たので、あわててコーラスを2階の寝室に隠した。シモーヌはコーラスが隠れているとも知らずに、リーズが逃げられないように2階の寝室に鍵をかけて閉じ込めた。

 そこへ公証人を連れたトーマスとアランがやって来て、トーマスとシモーヌが結婚の契約書類に署名し、アランとリーズの結婚が成立した。アランはシモーヌに鍵を渡されて2階に新妻リーズを迎えに行くが、扉を開けると、そこにはリーズとコーラスが仲良く抱き合っていた。

 リーズとコーラスはシモーヌに結婚の許しを願い出た。公証人もアランとリーズの結婚は無効と書類を破き、リーズとコーラスは愛し合っているではないかとシモーヌを諭した。ついに、シモーヌは二人の結婚を認め、怒ったトーマスはアランを連れて帰えりった。リーズとコーラスはシモーヌや農夫たちに祝福されてめでたく手を取り合いました。

<アシュトン版>

第一幕・第一場 (農家の庭)

 のどかな農村に収穫の朝が来た。仕事に向かう農夫たちは眠そうだったが、起き出したにわとりたちは元気で、雄鶏を中心に朝の訪れを告げるダンスを踊る。

 家の中から娘リーズが出て来て、納屋を覗き込んだり、何かを探しているようであった。すると後ろで音がして窓が開き、母親のシモーヌが恐い顔をして現れた。リーズにはコーラスという素敵な恋人がいたが、シモーヌはただの農夫であるコーラスが気に入らず、コーラスがリーズに近づかないように監視していた。

 女手一つで農家を切り盛りし、娘を育てたシモーヌはしっかり者だが、リーズとコーラスはシモーヌの監視の目を逃れて愛を育んでいた。

 シモーヌが引っ込んだのを確認したリーズはコーラスを探したが、見当たらないので、リボンをひらひらさせて踊りだしました。そしてコーラスへの愛の印としてリボンを納屋のフックに結んで(愛の結び目)家へ入る。

 そこへコーラスが仲間の農夫たちとやって来た。仲間たちは仕事に行ってしまうが、コーラスは庭に入りリーズを探し、リーズの作った愛の結び目を見つけて顔をほころばせた。コーラスはリボンをほどいて自分の持って来た棒に結びつけ、幸せそうに踊りだしました。

 家の窓を覗き込むと、そこに現れたのは怒った顔のシモーヌだった。シモーヌはコーラスに向かって問答無用と手当たり次第投げつけた。騒ぎをききつけてリーズも出て来てコーラスと抱き合うが、シモーヌはすごい腕力で二人を引き離し、ついにはキックを繰り出してコーラスを追い出した。そして親の言う事をきかない娘をつかまえて、お尻をペンペン叩いた。

 畑の収穫を手伝う農夫たちがやって来たので、シモーヌは賃金の交渉をしっかりしてから、彼らにカマを渡しました。農夫たちはカマを持って勇ましく踊ってから収穫に出かけました。リーズも彼らにまぎれてこっそり逃げ出そうとしましたが、シモーヌに見つかってしまい、またしてもお尻ペンペンの罰を受けてしまいました。

 シモーヌは娘が逃げられないようにバター作りの仕事を言いつけ、用具を持って来て、「こうやるのよ!」とばかりにばか力でぐいぐいと棒でつついたが、その間にコーラスがこっそり忍び込んで来て納屋に隠れた。

 シモーヌは力余って自分の足を強打してしまい、リーズに後は一人でやりなさい、と言いつけて、足を冷やしに家へ入っていった。リーズは仕方なく一人でバター作りをやるが、コーラスが納屋から出て来てトントンとリーズをつつきました。

 びっくりしたリーズですが、頼もしいコーラスにバター作りを手伝ってもらって幸せな気分になり、やがて二人はリボンを持ってあやとりスタイル、なわとびスタイルなど、いろいろと遊びながら楽しく踊った。 

 そこへ娘たちが現れたため、コーラスは再び納屋へ隠れた。収穫が祝われる今日はみんな心楽しく、娘たちはリーズを誘って踊り出すが、服を着替えたシモーヌが出て来て、怠け者の娘たちを追い出し、仕事をさぼっていたリーズにもお尻ペンペンの罰を与えた。 

 そこへ裕福なぶどう農園主トーマスがちょっと頭の足りない息子のアランを連れてやって来た。シモーヌはリーズのせっかんを中止し、打って変わってよそいきの笑顔でトーマスとアランを迎え、リーズに服を着替えるようにと言いつけて家の中へ入らせた。トーマスは召使に贈り物をたくさん持ってこさせてシモーヌに渡し、リーズをアランの嫁に、と結婚を申し込んだ。

 トーマスはアランにあいさつをさせようとするが、アランはお気に入りの赤い傘にまたがって戯れるばかだった。そこへリーズが着替えて出て来るが、自分がアランと結婚させられるとは知らなずに、アランの意味不明の滑稽さに大笑いする。

 シモーヌはその足りなさ加減に心配になるが、トーマスの裕福さは抵抗し難い魅力だった。天秤にかけた後、シモーヌはこの話にのる事にしました。

 トーマスの召使たちがポニーに引かれた荷馬車を運んで来きた。シモーヌとリーズが乗り込み、後からトーマスと赤い傘にまたがったアランが続き、一行は収穫が行われている麦畑へとお見合いピクニックに出かけた。

 

第一幕・第二場 (麦畑)

 一行はあちらこちらで収穫が行われている中を、陽気に進んで行きました。途中でトーマスが「あそこら辺りがワシの葡萄園なんですぞ」と自慢気味に話すと、シモーヌは感嘆してますます結婚話に乗り気になってゆく。何も知らないリーズも、可愛いポニーの引く荷馬車に乗ってご機嫌。アランはみんなとは無関係に赤い傘さえあればご機嫌で、途中で出会った娘たちにからかわれながら心浮き浮きとしていた。リーズの家のにわとりたちも一緒になって散歩に繰り出して雰囲気を盛り上げていった。

 そして少し離れてコーラスもワインボトルを両手に持ってやって来た。納屋に隠れていたコーラスは、トーマスがシモーヌにリーズとアランの結婚を申し込むのを聞いていたので、そうはさせるものかとリーズとアランの結婚を阻止するため、コーラスも一行の後を追って来たのだった。

 麦畑では農夫たちが刈り取りの最中で、刈り取った麦の束に囲まれながら、陽気にダンスを踊っている。

 一行を追い越して先に麦畑についたコーラスはワインボトルを農夫たちに差し入れる。そしてリーズがアランと結婚させられそうになっている事を話し、リーズの結婚話を阻止するための協力を呼びかけた。農夫たちはコーラスに同情し、味方になる事を約束してくれた。

 トーマスの一行が到着すると、コーラスはトーマスに「リーズは渡さないぞ」と宣言する。トーマスも「黙れ貧乏人!」とやり返した。トーマスとシモーヌはアランとリーズの手をつながせ、仲良くデートをさせようするが、アランは赤い傘と戯れるのみでデートどころではない。娘たちはそんなアランを笑いものにし、アランをもどかしく思ったトーマスは赤い傘を取り上げ「リーズと仲良くするように」と言いつけて、シモーヌと小屋の影でくつろぎながら話を始めました。

 アランはリーズの手をとって踊ろうとするが、まともな踊りにならない。リーズもようやく事情を理解し、ショックのあまり半泣きになってしまう。すると農夫たちがトーマスやシモーヌから見えないようにうまく人垣を作り、その人垣にまぎれてちゃっかりとコーラスがリーズの手をとった。

 恋しいコーラスの登場にリーズも笑顔を取り戻し、しばしリーズとコーラス+おまけのアランの3人で変則的パ・ド・ドロワを踊る。そして娘たちがアランをくすぐって喜ばせている間に、コーラスとリーズはどこかへ行ってしまった。

 アランはリーズがどこへ行ったのか、と農夫たちに訊いたが、みんなは知らんふりで踊り始めた。最初は腑に落ちない様子のアランだったが、踊りを見ているうちに楽しくなってリーズの事など忘れてしまい、一緒に踊り出した。しかしみんながカップルになっている中で、やはりアランは一人あぶれてしまい、農夫から娘を横取りしようとして邪魔者扱いされてしまいました。

 やがて農夫の一人が横笛を吹き始め、みんなはその笛にのって再び踊り始める。アランは自分が笛を吹いてみたくなり、農夫から笛を取り上げましたが、調子っぱずれの音しか出せなかった。農夫たちは怒ってアランから笛を取りあげた。

 しかし傘の代わりに笛に執着してしまったアランは何とか笛を自分のものにしようとして農夫たちの間をかき回したため、農夫たちもムッとしてアランを小突き回しました。ついにトーマスとシモーヌがそれに気がついて、怒ってアランを連れてどこかへ行ってしまいました。

 

 

 トーマスたちがいなくなると、リーズとコーラスが戻って来て、踊り始めました。(二人のグラン・パ・ド・ドゥに時々娘たちも加わります)愛をささやきながら踊り終わって、リーズとコーラスは幸せいっぱいだったが、そこへシモーヌが戻って来た。リーズとコーラスは隠れようとしたが、シモーヌは目ざとく見つけ、二人に対して怒りの鉄拳を振り上げた。

 協力者の娘たちは木靴を持って来て、シモーヌに踊ってくれるようにとせがみました。最初はそれどころじゃない、と拒否していたシモーヌでしたが、娘たちにおだてられ、それじゃあちょっとだけ…と、その気になって踊り始めた。(木靴の踊り、シモーヌと娘たち)

 やがてメイポールが持って来られ、それを囲んで農夫たちはメイポール・ダンスを踊り始めました。メイポールについているリボンをめいめい持って、踊りながらリボンを編んで行きます。そして今度はまた踊りながらそれをほどいて、楽しく踊っていましたが、突然稲妻がピカリと光ったかと思うと、どしゃ降りの雨が降り出しました。

 みんな雨を避けて走り回り、散歩中のにわとりも加わっての大騒ぎとなりました。そんな中でもリーズとコーラスはどさくさにまぎれて仲良く手を取り合いました。しかいし雷雨はいよいよひどくなり、農夫たちは散り散りに家路を急ぎました。

 アランはここぞとばかり、大好きな傘を開くが、折からの強風にあおられて、傘もろともに吹き飛ばされてしまいました。

 

第二幕 (農家の中)

 シモーヌとリーズも刈り取ったばかりの麦の束を傘代わりにして家に帰り着いた。ぬれたストールや帽子は暖炉で乾かし、身体を冷やさないようにタンスの引き出しからスカーフを取り出して首に巻いた。 シモーヌとトーマスの間ではリーズとアランの結婚の話がまとまっており、今日にもトーマスが公証人を連れて来て結婚の法律手続きをすませる事になっていた。結婚がきちんと成立すれば一安心、しかしそれまでは何としてもリーズを逃がさないように監視しておかなければ。シモーヌは扉に鍵をかけ、リーズが逃げられないようにして、鎖につけた鍵を用心深くエプロンの下のポケットにしまいこんだ。

 シモーヌはリーズと糸紡ぎをしながら約束の時間を待つ事にした。しかし朝からの大騒ぎで疲れてしまったシモーヌは段々眠くなってきました。リーズはそんな母親の隙をねらって何とか鍵をとろうと試みるが、うまくいかない。そのうちシモーヌはいびきをかき始めたので、寝てしまったのか確かめようと顔の前に手をかざしてみると、シモーヌは目を覚ましてしまう。

 目を覚まして監視せねと思ったシモーヌは、糸紡ぎを止めて、目覚ましにタンバリンを叩いてリーズを踊らせる事にした。最初は元気よくシャンシャン叩いてリーズを踊らせていたシモーヌでしたが、やがてまたしても眠気が抑えきれなくなり、いびきをかいて寝てしまう。

 シモーヌの熟睡を確かめたリーズだが、鍵をとるのはやはり無理だった。すると、扉の上部が開いて、コーラスが顔を出しました。リーズは喜んで手を伸ばし、扉越しに二人は抱き合いました。そしてしばらくそのままで仲良く手を取り合っていたが、居眠り中のシモーヌが大きく揺れた拍子にタンバリンを落として目を覚ましました。そして寝ぼけてタンバリンの代わりに手拍子を打ち始めた。

 コーラスはあわてて引っ込み、リーズは何とかごまかそうと、びっくりして冷や汗をかいたまま、カチンコチンになって踊り出しました。熱でもでたんじゃないかと思ったシモーヌでしたが、やがて自分も気分が乗ってきたので、一緒になって楽しそうに踊り出しました。

その時、ゴロゴロと大きな音が聞こえてきました。農夫たちが収穫した麦の束を持ってやって来たのです。あわててそこら辺を片付け、扉をあけると、農夫たちが収穫したばかりの麦の束を山のように運んで来ました。シモーヌは農夫たちに約束した賃金を支払いました。ついでにリーズも手を伸ばしてちゃっかりお金だけもらおうとしましたが、シモーヌに気づかれて叱られてしまいました。

 農夫たちが無事に仕事が済んだ事を祝って踊り出したので、リーズは彼らと踊っているように見せかけて一緒に外へ出ようとしましたが、これもまたシモーヌに見破られ、引き戻されてしまいました。シモーヌは怒ってリーズに協力的な農夫たちを追い出し、またしても扉に鍵をかけてしまいました。

 はっと気がつくと、トーマスとの約束の時間が迫って来ています。それまでに農夫たちにご祝儀の飲み物をふるまっておかなければなりません。シモーヌは外へ出たがるリーズを家の中へ押し込み、しっかりと扉に鍵をかけて外出しました。

閉じ込められたリーズは最初は悔しくて泣いていましたが、やがてコーラスとの未来を幸せそうに思い描き始めました。

 …まず長いヴェールをかぶり、素敵なウェディングドレスを着てコーラスと結婚式を挙げるの…そしてお腹が大きくなって…ええと、子供は2人?いえ、3人。上の子にはお勉強を見てあげるの。あんまり出来はよくないんだけど…そして真ん中の子のいたずらにはお尻をペンペンね…あっ、そんな事している間に赤ちゃんが泣き出しちゃったわ、どうしましょう。よしよし、良い子でネンネしてね…。

 楽しい空想に浸っていたリーズですが、突然がさっと音がして麦束の山が割れ、中からコーラスが飛び出して来ました。リーズが無理やりにアランと結婚させられてしまうのを心配したコーラスは、仲間の農夫たちの助けを借りて麦の束にまぎれて忍び込んでいたのです。

 コーラスが会いに来てくれたのはうれしいのですが、夢見る乙女心を他ならぬコーラス本人に聞かれてしまい、、リーズは恥ずかしさから泣き出してしまいました。コーラスはそんなリーズを優しく抱きしめ、自分の持って来たピンクのスカーフとリーズがシモーヌにつけられたクリーム色のスカーフとを交換し、お互いに「愛の結び目」を作りました。ようやくリーズも泣き止み、二人は幸せそうに寄り添いましたが、その時戻って来るシモーヌの姿が窓越しに見えました。

 リーズは大慌てでコーラスを隠そうとしました。麦束の山はもはや崩れてしまっていたので、慌ててコーラスを隠そうとしたのは机の下。だめだわ、こんなところじゃすぐに見つかるわ…それもそうだ、それじゃあ…と、適当な隠れ場所を探しましたが、あわて過ぎたためか、コーラスの身体が入るはずもない机の引き出しとか、火が赤々と燃えている暖炉とか、ヘマな場所しか思い浮かびません。シモーヌは今にも入って来そうな気配です。ええぃ、それじゃあ、ここよ!…とばかりに切羽詰ったリーズは2階の寝室にコーラスを隠しました。そして麦の束がバラバラにちらかっているのを何とかごまかそうと、掃除し始めました。

 

 

 帰って来たシモーヌは怠け者のリーズが熱に浮かされたように掃除していたので、驚いていましたが、そんな事はどうでもよくなるぐらいご機嫌でした。そして、…今からあなたとアランの結婚の手続きをするから、2階の寝室でウェディングドレスに着替えていらっしゃい…とリーズに命じました。

 リーズはびっくり仰天し、冗談じゃないわ、と目をむきましたが、その時シモーヌがリーズの巻いているピンクのスカーフに目を留めました。確か地味なクリーム色のを巻かせたはず…。

 これはあの男が忍び込んで来たに違いない…ピンときたシモーヌはどこかに隠れているに違いないコーラスを捜し始めました。引き出し…いない。机の下、暖炉の中…やっぱりいない!親子だけに同じようなヘマな場所を捜したシモーヌですが、もう時間もない事だし、リーズの方を閉じ込めてしまえ、と思い立ちました。リーズにウェディングドレスに着替えるように命じて、事もあろうに、コーラスが隠れている2階の寝室にリーズを閉じ込めてしまいました。

 

 

 そしてシモーヌがそわそわと髪を直していると、トーマスが晴れ着を着て、公証人を連れてやって来ました。トーマスとシモーヌは公証人が持って来た証書にそれぞれ署名し、法律的にはアランとリーズの結婚が成立してしまいました。トーマスとシモーヌは大いに満足して乾杯しました。そこへ農夫や娘たちに囲まれてアランがこれまた晴着で片手に指輪、もう一方の手に赤い傘を持ってやって来ました。

 指輪を誰かに渡さなければいけない事はわかっていても、誰に何のために渡すのか、アランはわかっていませんでした。一人で指輪をもてあそんだり、変な踊りを踊ったり、シモーヌに渡そうとしたりしていたのですが、シモーヌに2階の寝室の鍵を渡され、新しく妻となったリーズに渡すのだと言われて、階段を上がって行きました。

 階段から落ちたり部屋を行き過ぎてしまったりと、いろいろとデタラメをやった後、アランはやっと寝室の扉を開けました。と、アランはびっくり仰天するあまり思わず階段を転げ落ちてしまいました。シモーヌやトーマス、公証人、農夫たちも唖然としました。何と、そこにはウェディングドレス姿のリーズがコーラスと抱き合っていたのでした。

 シモーヌは気絶してしまい、娘たちに介抱されました。トーマスはかんかんに怒ってしまいました。

 そんな中をリーズとコーラスは階下に下りて来て、シモーヌに結婚の許しを願い出ました。出し抜かれたシモーヌは泣いて悔しがりましたが、公証人はアランとリーズの結婚はリーズ本人の意思を欠いているから無効だ、として証書を破いてしまいました。そしてリーズとコーラスは愛し合っているではないか、とシモーヌを諭しました。農夫や娘たちも、二人の愛を認めてあげて欲しい、とシモーヌに懇願しました。ついにはシモーヌも心を動かされ、二人の結婚を認めました。

 アランは誰にも指輪を渡せないのが悲しくて呆然としていましたが、トーマスはかんかんに怒ってしまい、リーズとコーラスにくってかかろうとしました。しかしシモーヌが敢然と二人とトーマスの間に立ちふさがって、二人をかばいました。

 アランはなおも誰かに指輪を渡したい衝動を抑えられずに切ない顔をしていましたが、激怒したトーマスはアランを連れて出て行ってしまいました。

 

 

 シモーヌはコーラスと抱き合いました。リーズとコーラスは幸せに包まれてパ・ド・ドゥを踊りました。農夫の一人が横笛を吹き始め、それにあわせてみんなめでたく踊りながら退場していきました。

 そして誰もいなくなった家の窓からこっそりとアランが入って来ました。不安そうに何かを探しています。やがてアランは机の上に忘れていった赤い傘を見つけ、たちまち笑顔になりました。これさえあればご機嫌の、大好きな赤い傘。アランは幸せそうに赤い傘と共に退場して行きました。

 

 

ラ・フィーユ・マル・ガルデ基本情報

初演台本・振付     ジャン・ドーベルヴァル

初演の音楽       当時の流行歌を使用

初演日時と場所     1798年ボルドー・グランド・シアター(Grand-Theatre Bordeaux)

原題名          

 

アシュトン版

初演            英国ロイヤル・バレエ団 1960年コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラハウス     

 

 

 

「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」の歴史

 ラ・フィーユ・マル・ガルデは最も古いバレエの一つです。初演はフランス革命のバスティーユ襲撃のわずか2週間前で、あまりに古いため、題名とお話だけが残り、音楽や振付などの記録はほとんだない。

 シャルル・モリスの説によると、ある日、ドーベルヴァルが何気なくショウウインドウを見ると、ある版画に釘づけになった。その版画は小屋から若い村の男が逃走、その若い男に向かって年配の女性が彼の忘れ物の帽子を投げつけ、その側で若い娘が涙を浮かべている、というものであった。その版画に見たドーベルヴァルが、短期間のうちにバレエを創りあげたということである。

 初演時は、わらのバレエと呼ばれていたが、1791年のロンドン公演からラ・フィーユ・マル・ガルデと呼ばれるようになった。話が単純明快で楽しいので、まもなく世界中に広まってゆく。

 

アシュトン版について

 アシュトンの改訂版は初演から今日に至るまで、英国ロイヤルバレエを代表する人気のバレエである。アシュトンはベートーベンの田園交響曲を聴きながら、曲からインスピレーションを得て振付をしたらしい。振付についてはアシュトンはカルサーヴィナの指導をあおいだ。カルサーヴィナは自分の知識をアシュトンに伝え、このバレエのイノセントな魅力を壊さないようにとつけ加えた。

  木靴の踊りはアシュトンのオリジナルで、アランが傘にしがみついたまま強風に吹っ飛ばされるシーンも昔から受け継がれてている。アシュトンはそれらを受け継ぎながらも、それらを彼らしいステップで甦らせ、新しい魅力を与えたようです。

 アランが登場する最後のシーンですが、これもカルサーヴィナの言うイノセントさにあふれるいいシーンですね。アランはリーズに横恋慕したわけではなく、頭の弱いアランを心配した父親がよい嫁をとろうとしてリーズとの結婚を画策しただけです。ですから、リーズがアランを相手にせずにコーラスと結ばれてもアランは可愛そうなわけではなく、赤い傘さえあればご機嫌なのです。

 アランだけでなく、トーマスやシモーヌも個性的な魅力あふれるキャラクターです。トーマスは金持ちで威圧的に見えますが、頭の足りない息子を心配して何とか身がたつようにしてやりたい、と思っている子煩悩な父親にすぎない。

シモーヌはアシュトン版では男性が演じ、がさつで大げさな身振りが笑いを誘います。このシモーヌ、夫亡き後は女手一つで農園を管理し一人娘のリーズを育てています。

 農夫たちに収穫を依頼するぐらいの大きな畑を持っているのですから、管理も大変だと思います。農夫たちとの賃金の交渉や監督だって、下手をすれば女だと馬鹿にされてしまいますから、並みの男よりしっかりとやる必要があるでしょう。

 そんな苦労をしてきたシモーヌですから、リーズには無駄な苦労をさせたくないと思い、裕福でしっかりした父親のいる家へ嫁がせたいと思ったのだろう。シモーヌはお金にひかれている面も確かにあるが、娘の幸せを願う暖かい心を持った母親でもあった。

 頭の足りない息子の将来を思って健康なよい嫁をもらおうとする父親と、ただがめついだけではなく、未亡人として苦労して来た経験から裕福でしっかりした父親のいる家庭へ娘を嫁がせようとする母親。だけど娘には好きな男性がいて、その男性はお金はないけれど、機知も勇気もあって、ついには二人の真剣な気持に母親も情を動かされて二人の仲を認める。アシュトン版はイノセントな魅力に満ちている。なおアシュトン版は日本では「リーズの結婚」と呼ばれているが、英国では「わがまま娘」という副題がつけられている。ロシア版では「無益な用心」と呼ばれている。