ラ・シルフィード

ラ・シルフィード

 ラ・シルフィードは「ジゼル」「白鳥の湖」とともに三大バレエブラン(白のバレエ)に数えられるロマンティックバレエの代表作。1832年にフランスパリオペラ座(全二幕)で初演されたが、1836年にデンマーク王立バレエ団により上演されたブルノンヴィル版が今日まで継承され広く知られている。

 主人公シルフィードの妖精らしさを演じるため初めてチュチュを用いたこと、ポワント(つま先)で立ったことが記録されているなど歴史的にも貴重な作品と言える。またスコットランドの農村が舞台になることから、男性がスコットランドの民族衣装であるキルト(スカート)を身にまとっているのも特徴である。


 

第一幕

 スコットランドの農村の話である。村の農夫ジェイムズは婚約者エフィとの結婚式の朝を迎えた。うたた寝をしている農夫ジェイムズの夢の中へ森の妖精シルフィードが現れ、魅惑的な踊りでジェイムズを魅了する。妖精シルフィードはジェイムズに愛を告白し「結婚なんかやめて、二人で森へ行って楽しく暮らしましょう」と誘う。ジェイムズが夢から覚めて、手を差し伸べようとすると、彼女の姿は一瞬にして暖炉の中に消えてしまう。ジェイムズエフィを愛しているので、妖精シルフィードの誘惑を退けようとするが、妖精シルフィードは理想の女性そのものであり、ジェイムズの心は妖精シルフィードとエフィーとの間で揺れ動いてしまう。

 ジェイムズは夢の中で会った妖精シルフィードのことが気になるが、結婚式のために訪れた婚約者エフィを出迎え、友人たちの前で愛を誓うダンスを二人で踊る。

 どこからともなくジェイムズの家には、年老いた魔女マッジが入り込み「エフィはジェイムズとは結婚せずにジェイムズの親友ガーンと結婚する」と不吉な予言をする。ジェイムズは怒ってマッジを叩き出すが、エフィを心から愛するガーンはマッジの予言に一縷の望みを託す。

 やがて結婚式が始まろうとするが、エフィや友人が式の衣装に着替えるためその場を離れると、ひとりになったジェイムズのもとに再び妖精シルフィードが現れ、ジェイムズとエフィの結婚を知ると、妖精シルフィードは深く嘆き悲しみながらジェイムスに愛を告白する。彼女の一途な想いにジェイムズの心も揺らぎ始めるのだった。

 いよいよ結婚式が始まり、エフィがヴェールをかぶり、友人たちが盛大にダンスで歓迎をする。ジェイムズとエフィのふたりだけのダンスが披露されるのだが、そこへ再び妖精シルフィードが現れ、ジェイムズはエフィと自分の目にしか見えないシ妖精ルフィードの二人を相手に三人でダンスを踊るのだった。

 婚礼が始まり指輪の交換になって、ジェイムズが指輪を取り出すと妖精シルフィードはジェイムズが手にしていた指輪を奪い取って森へ逃げ去ってしまう。ジェイムズは花嫁よりも妖精シルフィードを愛していたのだった。ジェイムズは花嫁を置き去りにして、妖精シルフィードの後を追う。ジェイムズが式からいなくなったことに気付いたエフィは深く傷つき落胆する。するとエフィのことを陰ながら愛していたグエンが友人たちに背中を押され、その場でエフィに突然の告白をするのだった。

 

第二幕

 たくさんの妖精たちが舞う深い森の中、ジェイムズは妖精シルフィードを森の中まで追いかけるが、妖精シルフィードの体は抱きしめようとすると消えてしまい、触れることもできない。ひとり残されたジェイムズはエフィを裏切った後悔と妖精シルフィードへの満たされない想いに苛まれた。

 想いが募ったジェイムズの前に魔女マッジが現れる。業を煮やしたジェイムズは妖精シルフィードを手にいれるためならば命を捨ててもかまわない」と言うと、魔女マッジは肩掛けをジェイムズに渡し「これで妖精シルフィードをくるめば彼女の羽は抜け落ちて、永遠に彼女はお前のものになる」と言った。

 ジェイムズは喜んで肩掛けを受け取るが、それは呪いのショールだった。そうとは知らずにジェイムズはシルフィードの肩に呪いのショールをかけてしまう。妖精シルフィードの背中の羽は落ち、飛べなくなっただけでなく、全身から力が抜け倒れるように伏してしまった。ジェイムズを心から愛していた妖精シルフィードは残された最後の力でジェイムズに指環を返すと、「ジェイムズへの愛に後悔はない。エフィのもとに帰るように」と告げると、彼の腕の中で静かに息絶えてしまう。

 そこへエフィとグエンの結婚式の鐘が響き渡り、絶望するジェームズの目の前をエフィーとガーンの結婚式の列が通りすぎてゆく。すべてを失ったジェイムズは嘆き、その場に倒れ込んでしまう。あたりには魔女マッジの嘲りの笑い声が響いていた。