絵画理解のための新約聖書

 キリストの誕生以来、ヨーロッパのすべてはキリスト教を基盤にしていた。ヨーロッパの文化や美術はキリスト教とは切っても切れない関係にあり、キリスト 教を知らずに絵画を語ることは出来ない。文字を読めない人がほとんどだった時代である、彼らに宗教を教えたのは、聖堂の壁や窓を飾った彫刻・絵画であっ た。もちろん教会の牧師がキリスト教を教えたが、その教えに真実性を与えるのが絵画であった。キリスト教絶対主義の時代、キリスト教の普及のため、教会の 権威を高めるために、宗教的彫刻・絵画は必須であり、芸術イコール宗教であった。
 宗教に戒律があるように、宗教画にもルールがあった。このルールを知ることが絵画への理解を深めることになる。まず大原則として「裸を描いていけない」 ことが挙げられる。裸を描けるのはギリシャ神話とアダムとイブだけである。さらに細部になると、例えば「受胎告知」(天使が聖母マリアにイエス・キリスト を身ごもったことを告げる)場面では、聖母マリアは赤と青の衣を着ていなければいけない。受胎告知を受けるマリアは聖書を持って描かなければいけない。そ して必ず白百合を持った天使が描かれる。
 このように絵画には必ず約束事がある。現在の私たちには想像もつかないが、テレビも印刷物もなく、多くの人たちが字を読めずに飢えに苦しむ毎日であっ た。敵が来ては生死を決め、生死、死後の世界を決めるのが宗教であり、宗教への信仰が生きることの根本であった。そのため信じる宗教がすべてであり、他の 宗教は排除された。キリスト教を信じるものが人間であり、他の宗教を信じる異教徒は人間ではなかったのである。