マリア・カラス

マリア・カラス
 音楽に興味がなくとも、この名を聞いたことがない方はおそらくいないでしょう。今世紀だけではなく、女性がオペラを歌うようになってから今後もふくめて、もっとも有名な歌手です。彼女の声の前では、人々は聞き惚れるというよりひれ伏すという表現がふさわしい。
 波乱万丈の人生だろうと、その美貌や圧倒的な歌唱力だけではなく、ケネディ大統領の未亡人ジャクリーヌとその愛を奪い合った海運王オナシスとの恋愛とその破たんの物語でも名をはせました。親に省みられない少女時代であったとか、オナシスとの愛にやぶれた後、晩年は孤独に死んだとか言われているが、そんなことはどうでも良い。モーツァルトも困窮の末に死に、ベートーベンは聴力を失い、ヘンデルはいつも借金取りに追われていた。伝説のカストラート・ファリネッリは、愛を高らかに歌い上げながら、つねに愛に飢えていた。それでも彼らは、すばらしい音楽を遺してくれたのです。
 素晴らしきは彼女の歌声。なにものにも侵されず、すべてを圧倒する無敵のパワー。それを聴く栄誉によくした我々は、ただその音に全身をひたし、最後にあらん限りの力で拍手を贈る。そうされるのに最もふさわしいのがマリア・カラスである。