血液透析で劇症肝炎の集団発生

血液透析で劇症肝炎の集団発生 平成11年(1999年)

 平成11年5月27日、加古川市の福原泌尿器科医院で血液透析を受けていた腎不全患者8人がB型肝炎ウイルスに感染、2人が劇症肝炎で死亡、3人が入院中であると兵庫県が発表した。兵庫県は感染調査委員会を設置して、カルテなどから5人以外に劇症肝炎で死亡したと思われる患者が1人いること、さらにこの発表から2カ月後に2人の患者が劇症肝炎で死亡する事態となった(最終的に6人が死亡)とした。

 感染調査委員会は患者の血液検査から感染源と思われるB型肝炎ウイルス(HBV)キャリアー(保菌者)を特定した。当時、福原泌尿器科医院では123人の患者が透析治療を受けていて、死亡した患者とHBVキャリアーから検出したウイルスのDNAが一致したことから、院内感染と断定した。患者は「生理食塩水や注射器の使い回しがあった」と証言したが、感染調査委員会は感染経路不明とした。

 当医院で透析を受けている98人(80%)がC型肝炎ウイルスに感染していた。C型肝炎は血液によって感染するが、当時、人工透析患者のC型肝炎感染率は15〜20%とされており、当医院のC型肝炎80%の数値は、当医院の衛生管理がいかにずさんだったかを示唆していた。

 HBVは母親から乳児への垂直感染が有名である。しかし昭和61年からHBe抗原陽性の妊婦に対してワクチンを投与することになり、新たなHBV患者は激減した。しかし昭和61年以前に生まれた人たちは、無症候性キャリアーになるので、血液に接する機会の多い医療施設で感染する可能性が高かった。

 この事件の5年前の平成6年、東京・新宿の西新宿診療所で劇症肝炎の集団感染が起き、人工透析を受けていた慢性腎不全患者5人がB型肝炎ウイルスに集団感染し、4人が劇症肝炎で死亡していた。東京都の劇症肝炎調査班は「感染源は同じ時間帯に透析を受けていたB型肝炎のキャリアー患者で、透析時の管注や採血などの行為によって、ウイルスが体内に入った可能性が考えられる」としたが、実際の感染経路は不明だった。患者の透析の順番を分析しても分からず、注射器の使い捨ても守られていたので感染の証拠がつかめなかった。調査班は同診療所に感染予防の徹底を指示するだけであった。

 血液透析によるB型肝炎ウイルス感染については、平成9年2月に、金沢大医学部付属病院で集団院内感染が起き1人が劇症肝炎になっている。平成12年6月頃、宮城県塩竃市内の医院で透析中の5人の患者が感染し劇症肝炎で4人が死亡している。5人の患者のウイルス遺伝子が一致していたが、感染源、感染経路は不明であった。

 さらに平成18年8月には、京都市山科区の音羽病院で人工透析中の患者8人がほぼ同時期にB型肝炎ウイルスに感染し、5人が入院となった。また平成19年2月には、大阪府枚方市の佐藤病院で、人工透析中の入院患者2人がB型肝炎ウイルスに感染し、1人が劇症肝炎で死亡している。

 劇症肝炎の年間発生数は数千人とされ、A型、B型肝炎ウイルス、そのほかのウイルス感染、薬剤の副作用などが引き金になる。劇症肝炎は肝機能が短期間に低下して、意識障害や臓器不全が起きる。急性肝炎の1〜2%が劇症化して、劇症化した患者の約半数が死亡する。血液透析施設でのB型肝炎ウイルスの集団感染、劇症肝炎の発生頻度が高い理由については不明であるが、透析施設で高頻度に起きていること、ウイルスのDNAが一致していることから院内感染によるものとされている。

 日本に人工透析が導入された当時、透析施設でウイルス性肝炎の集団感染が多くみられていた。感染対策がなされている現在でも、C型肝炎の感染が散発している。透析室は大部屋で、多数の患者が、同時に週に数回の血液の体外循環を行っている。さらにHBVは室温において少なくとも7日生き続けることができるので、感染経路が不明であっても血液による院内感染があっても不思議ではない。このことからも、患者を手当てする度に手袋を替え、手を洗うなど細心の感染防止が必要である。なお血液透析スタッフのHBV感染のリスクは高くないことから、透析スタッフに対して定期的に検査を行う必要はない。