ポケモン騒動

ポケモン騒動 平成9年(1997年)

 平成9年12月16日午後6時50分頃、テレビ東京系列で放映していた人気アニメ番組「ポケットモンスター」(通称ポケモン)の第38話を見ていた子供たちが、突然、けいれんやひきつけ、記憶喪失などを起こし、全国各地で救急車が出動する騒動となった。

 病院の当直医たちは、運ばれてきた子供たちを前に困惑したが、放映終了から2時間後の「NHKニュース9」が騒動の第1報を伝えたので、子供たちの症状はテレビによるものと冷静に対応できた。

 翌17日、自治省消防庁は30都道府県で685人が救急車で病院に運ばれ208人が入院したと発表した。北九州市では11歳の女児が重症となり、集中治療室に収容されていた。そのほか、大阪市や千葉県船橋市などでも児童が重症になっていた。

 病院に行かないまでも、具合を悪くして学校を欠席した児童。録画したビデオを見て病院に運ばれた児童もいた。当時の視聴率から計算すると、全国で345万人の子供がポケモンを見ていて、異常を感じた子供は1万人以上と推測された。

 問題を起こした6時50分頃の放映では、色彩を交互に点滅させる通称「パカパカ」と呼ばれる技法と、強い光を放つ「フラッシュ」という技法が用いられていた。この「パカパカ」と「フラッシュ」は古くから使われていたが、今回の放映ではストロボやフラッシングなどの激しい点滅が、各1秒間以上25カ所で使用されていた。これらの技法が原因となったことは間違いなかった。

 このポケモン騒動で番組は中止となり、アニメの原作であるゲームソフト「ポケットモンスターシリーズ」の発売元・任天堂の株価が大暴落するほどであった。ポケモン騒動は米国まで波及し、米国でもテレビの自主規制が行われた。

 テレビ東京は、当日だけ特別な技法を使ったわけではないと述べたが、この報道を知った多くの神経内科医は、光感受性てんかん発作(PSE:photosensitive seizure)によるものと想像していた。PSEとは「光の点滅刺激によって大脳に異常を来すこと」で、木漏れ日のチラツキなどが引き金になって起きることが古くから知られていた。PSE患者は4000人に1人とされ、その診断はストロボの点滅刺激を与えながら脳波を調べることである。光が神経細胞を刺激し、自律神経系を刺激して発作を引き起こすのだった。

 ポケモン騒動で厚生省は「光感受性発作に関する臨床研究班」を設置し、脳波に異常がなくても強い光刺激で発作が起きること、特に赤色の光刺激が大脳を興奮させやすいこと、暗い部屋でテレビから近い距離で見ていた者に被害が多かったことを発表した。

 翌年の平成10年4月8日、日本民間放送連盟とNHKは再発防止のガイドラインを発表。その内容は光の点滅は1秒間に3回を超えないこと、鮮やかな赤色の点滅は特に注意すること、コントラストの強い画面の反転は1秒間に3回を超えないとした。この規制はアニメだけでなく、CMを含めたすべてのテレビ画像に適用された。このガイドラインにより、騒動から4カ月後の4月16日、ポケモンのテレビ放映が再開された。

 前述したように、ポケモンは平成8年に任天堂が発売したゲームソフトである。野や山に生息するモンスターを捕まえ、気に入ったモンスターを成長させるゲームで、通信ケーブルで友達のモンスターと交換することができた。それまでに100万本以上が売れたヒット作で、アニメになってテレビで放映されると、平均視聴率13.9%を記録するほどの人気番組になっていた。

 平成9年12月24日、朝日新聞は驚くような記事を掲載した。それは米国とロシアがポケモン騒動をヒントに、光線兵器の開発を進めているという記事であった。ストロボ光線を兵器に用いる、なんとも恐ろしい話である。なおギネスブックには「最も多くの視聴者に発作を起こさせたテレビ番組」としてポケモンの名前が記載されている。